<まちかどエッセー・若蝸_美>四角い鉄のフライパン

[わかやなぎ・よしみさん]東京都三鷹市出身。朗読ユニット100グラード主宰。TOHOKU360通信員、荒浜のめぐみキッチン活動メンバー。宮城県内のコールセンターで十数年勤務、第55回全国電話応対コンクールで優秀賞受賞。現在は仙台市のIT企業に勤務。仙台市若林区在住。41歳。

 昨今、映える(ばえる=SNS、特にインスタグラムに載せると目立つ、という意味らしい)食べ物が人気だ。代表格はパンケーキ。クリームが山のように盛られており、わたあめが雲のようにデコレーションされているものもある。いろいろなお店で食べて分かったのは、私が好きなパンケーキは、ここ最近もてはやされているふわふわの、あるいは何枚も積み上げられたパンケーキではなく、いわゆるホットケーキだ、ということだった。
 よくお邪魔する喫茶店では、焼き上がりまでに20分かかる、まんまるで厚みのあるホットケーキを提供してくれる。先日このホットケーキを頬張りながら、ふと、本当にふと、幼少期にホットケーキを食べていた時のことを思い出した。しかも頭に浮かんだのは「わが家のホットケーキの味」でも「作ってくれている母の背中」でもなく、“ホットケーキを焼くために使っていたフライパン”のことだった。
 私の記憶では、わが家の台所には、ホットケーキ専用のフライパンがあった。鉄製で、四角くて、重いフライパン。卵焼き器ほどの深みはない。丸型のフライパンのように持ち手が1本だけ付いていて、焼く面が四角い。スキレットの3分の1程度の深さ。鉄なので、使い終わった後は火を入れて油を塗ってからしまっていた。こうしないとすぐさびてしまう。
 この記憶の正当性を確認すべく弟2人にフライパンのことを聞いてみたが「あったような無いような」「存在すら知らない」とのこと。「そういえばあったね」「あれってどこで買ったんだっけ」と、母が覚えていたので、私の記憶捏造(ねつぞう)ではないことが証明された。
 どうして突如、四角い鉄のフライパンを思い出したんだろう。食べ物や匂いはさまざまな感覚に訴える部分もあるから、何かをきっかけに思い出すのは分かる。しかし、だ。今回の想起は、記憶の中のホットケーキ、ではなく、それを焼くフライパン。思い出すトリガーがあったんだろうな、と思いつつ、今日の朝ごはんは、ふわふわのホットケーキを自分で焼いて、ゆっくりといただくことにする。
(朗読ユニット100グラード主宰)


2019年04月08日月曜日


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