<まちかどエッセー・鈴木誠一>壺中の天、六中観的生き方

[すずき・せいいちさん]鈴屋金物(株)代表取締役。1951年仙台市生まれ。早稲田大商学部卒・同大大学院商学研究科修士課程修了。早稲田大商議員、仙台稲門会副会長。仙台二高同窓会理事・創立120周年記念データベース委員長。ジャズバンド「ビバップス」主宰。

 遠方のある経営者から小冊子と手紙が届いた。私が自社のホームページに掲載した文章を参考に、その方は会社の創立30周年記念の小冊子を書いたので許可をという。うれしいお便りに二つ返事でOKした。
 安岡正篤氏に「六中観」という人の道、指導者の在り方を説いた言葉がある。人間の心構えを六つで論ずる。「死中、活有(あ)り」「苦中、楽有り」「忙中、閑有り」「壺中(こちゅう)、天有り」「意中、人有り」「腹中、書有り」
 「死中、活有り」が教えること。企業は常に倒産の危機と向き合っている。死ぬ気になって道を開け。死中に活を求めるべし。名経営者たちの心の中には、いつもこの言葉がある。
 「苦中、楽有り」。生き残る会社は、苦しみに耐え抜いた会社。苦しさこそ生きがい、楽しみだ。
 「忙中、閑有り」。繁忙の中から得た時間「閑」こそ生きた時間。ビジネスが忙しい時こそ、スポーツや音楽などの趣味、哲学・信仰・ボランティアなどの時間を大切に活用しよう。
 「壺中、天有り」は漢書方術伝の故事による。役人が薬売りの老人を見ていると、老人は小さなつぼの中にパッと入って見えなくなった。翌日、目撃したことを告げると、老人は役人をつぼの中へ連れて行った。中には美しい山水や金殿玉楼があった。日常の中に別天地を持て。
 「意中、人有り」。心の中に目標とする尊敬する人物がいる。その人は生きている人と限らない。先人の知恵の波動を感知すべし。
 「腹中、書有り」。腹の中に書物を持つとは、自分の心に揺るぎない信念・哲学を持つことだ。断片的な知識でなく、先人の教えや愛読書、人生観などしっかり蓄えた哲学を持つ。
 六中観は「忙」「苦」「死」の3文字で表されるせっぱ詰まった状況、人生のピンチの際の心の持ち方を説く。極限まで追い詰められなければ、心の奥深い所から沸き起こるエネルギーに出合えない。「閑」「楽」「活」は、そんな状況から見える一筋の光明だ。
 「忙」「苦」「死」を切り抜ければ壺中の天あり。バブル崩壊で多くの建設会社が倒産し、巨額の不渡り手形が私の手元に残った。壺中の天が私を救ってくれた。六中観的生き方が今もなお私の心の支えである。
(金属工事施工会社経営)


2019年08月05日月曜日


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