<まちかどエッセー・長沼広>機械と細胞の戦い

長沼広[ながぬま・ひろし]さん 1952年山形市生まれ、東北大医学部卒業。東北大病院に勤務し、米国のロックフェラー大に2年間留学。帰国後、仙台市立病院に勤務し、定年退職。現在は仙台赤十字病院勤務。

 量子コンピューターが出現した。スーパーコンピューターが1万年かかる計算を数分で行うという。想像すらできない。人工知能(AI)も自動車の衝突防止機能のように、われわれの生活の中に浸透しつつある。量子コンピューターとAIの組み合わせが進むと、人間の仕事が奪われると懸念する声も聞こえている。
 確かに複雑な計算を瞬時に行い、休むことなく仕事をするのだから、そういう場面では人間は太刀打ちできない。われわれは、いま新しい技術文明の誕生に立ち会っている。この技術文明は、今までの暮らしに大きな変化をもたらすことだろう。だからこそ「人間とは何か」を考える必要があると思う。
 1個の卵子と1個の精子が受精し、細胞分裂して生命体を作る。ヒトは約60兆個の細胞からできている。遺伝子が実に忠実に個体(種)を作り上げる。しかも個々の細胞はバラバラに動いているのではなく、見事にコントロールされている。
 心臓は休むことなく動き続け、肝臓は栄養を蓄え、代謝・解毒をおこなう。腎臓はからだの中の老廃物を排せつし、からだの中の電解質を調整する。これらの機能を数十ミクロンの細胞が正確に行っている。
 この驚異的な営みは、少なくとも20万年は繰り返されている。近年では高性能の人工心臓、人工透析などが作られている。しかし、機械が細胞の機能を完全に代用するには至っていない。ヒトは神秘的な生き物なのだ。
 ヒトは道具を作り、使いながら進化してきた。現代を代表する道具がAIとコンピューターだろう。近い将来、AIが搭載されたロボットがわれわれの周りで多くの仕事をするようになる。人手不足に悩まされている病理医の世界では、AIと仕事ができる日の到来を不安を持ちながらも待望している。
 人間はある面で、AIやロボットにかなわない。それでも人間はすばらしい。新しい道具とうまく付き合って、豊かな生活が送れることを願い、「人間とは何か」を課題に残して、本エッセーを終了する。
(病理医)


2020年02月17日月曜日


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