<まちかどエッセー・渋谷敦子>エグちゃんの野菜

渋谷敦子[しぶや・あつこ]さん 1956年にかほ市生まれ。山形大人文学部卒業。名取市在住。2008年まで市民による舞台芸術裏方集団「未来工房なとり」を主宰。05年より「みやぎ聞き書き村草子」、15年より「みちのく櫂(かい)草子」で聞き書き活動

 春になると思い出すのが大豆を煮ている匂いである。子どもの頃、それは近隣の家々から漂ってきて、緩んだ空気と混じり合った。それが大豆を煮ている匂いだと分かったのは、だいぶ後のことなのだが。
 さて、この大豆とともに「スーパー和食」の大事な要素が、お米と種類豊富なわが国の野菜なのである。
 だが大量生産、大量・広域流通のために効率が優先され、野菜の生命力は失われていくのが現実だ。
 それを残念に思っていた時、自然農法で野菜を作る佐藤将大(まさひろ)さんを知り、月2回自宅に野菜を届けてもらっている。全て固定種、無肥料、無農薬である。
 先頃までは、葉物はホウレンソウ、からし菜、ちぢみ菜、春菊など、それにニンジン、カブなどの根菜が中心。固定種だから「黒田五寸人参(くろだごすんにんじん)」「打木源助大根(うつぎげんすけだいこん)」などの立派な名前がある。固定種とは、何代も種を取り育てていくことにより、同じ形状を受け継いだ種のことである。
 ニンジンは柔らかくて甘味があり、葉物はしっかりした歯応えで、全般に香りが強めだ。今まで食べてきた野菜とは別物。調理法も発想を変えてシンプルに食べたほうがおいしい。
 5年前に「エグベジ農園」を始めた佐藤さん、まだ30歳を過ぎたばかりの青年で2児の父でもある。「エグ」は人気グループEXILEのメンバーに似ていると言われて付いた名だそうだ。
 始めてからの2年は全くだめで、マニュアルカレンダーは意味がないことを悟ったという。それでも最初に抱いた「生きるための最大の安心をつくる」との信念は変わらず、作り続けて精神が強くなったそうだ。
 自然の仕組みを引き出すという自然農法は、観察に時間をかけるため、畑に泊まり込むこともある。接触することがいかに大事かということも学んだ。
 そんなエグちゃんに農家という意識はないようで、「自然を介して自分と向き合う」その延長上に作物が実り、食べてくれる人がいることに日々の喜びを感じているようだ。
 春野菜はこれから。エグちゃん、待ってますよ。
(みやぎ聞き書き村会員)


2020年04月06日月曜日


先頭に戻る