<まちかどエッセー・渋谷敦子>旅の醍醐味は歩き旅

渋谷敦子[しぶや・あつこ]さん 1956年にかほ市生まれ。山形大人文学部卒業。名取市在住。2008年まで市民による舞台芸術裏方集団「未来工房なとり」を主宰。05年より「みやぎ聞き書き村草子」、15年より「みちのく櫂(かい)草子」で聞き書き活動

 高校には汽車通学をしていたせいか、今も列車旅は好きで、長時間の各駅停車の椅子も苦にならない。
 JRに青春18きっぷというのがあると知り、文庫本1冊を持って、日帰りでどこまで行けるかをずいぶん楽しんだ。それが東日本大震災以来、もろもろの事情で中断してしまっている。
 そのうち復活させたいものだとぼんやり考えていたところ、仙台市内に住む友人が「夫が歩いて鹿児島県まで行く計画を立てている」と言う。ご主人のUさん、ご先祖のお墓がある鹿児島まで歩いて墓参りをすることを30年も前に宣言していたというのだ。そのご先祖というのが、現在の日置市にあった小城の伊作田城主だというから驚いた。
 寝泊りは、食べ物はと、あれやこれやの妻の心配をよそに、Uさんは昨秋仙台を出発。飛行機を使えば時間も費用もぜいたくできるのにね、とは友人のせりふ。
 いやいや、なかなか得難い時間を享受しているのではと想像する。日常から放たれて、1日35キロただただ歩く。だがそれだけのことでもあるまいと思う。目的地までの道筋には風景があり、人がいて歴史がある。
 思えば新幹線の開業から50年余り。人と物の流れを飛躍的に増大させ、日本の経済成長を担ったのは間違いなく、その速さにさまざまな恩恵を受けてきた。
 だが点から点への移動は、その線上と線上にない地域の豊かな文化を置き去りにしてしまった。新幹線がもたらした、地方経済の衰退という負の側面に気付くには遅すぎたように思う。
 今書かないと埋もれてしまいそうな古老の話や、歴史の表舞台に登場しない人々の声を残したくて「聞き書き」をすることも、この危惧と無関係ではない。
 などと私が思っているうちに、Uさんは広島県の尾道まで達したようだ。九州はもう目の前だが、折あしくコロナウイルス禍にある今は、いったん仙台に戻って再出発の日を待つ。
 今も城主の慰霊と豊作を祈願して行われるという、伊作田踊りの優しさで、土地の人が迎えてくれるのが待ち遠しい。
(みやぎ聞き書き村会員)


2020年04月20日月曜日


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