<まちかどエッセー・前川美穂>豊かさって何だろう

[まえかわ・みほさん]1986年仙台市生まれ。弘前大で農学・生物学を学び、会社では微生物管理の仕事を経験。震災を機に地元仙台の実家に戻り、家族と「すずめ農園」を立ち上げる。お米を育てながら農体験イベントや発酵の講座を行う。現在は鍼灸(しんきゅう)師も務める。泉区在住。

 農業に関わり8年、茶道を習い始めて1年以上がたちます。農の現場で感じる豊かさは、茶道にも共通していて、大切な感覚を教えてくれました。それは、「在る」に気付き、感じることでした。
 田んぼで作業していると、どんどん上に伸びる草、花を咲かせ実を付ける植物、春から夏へ、夏から秋へ、移ろう時間とともに自然の変化に気付いていきます。田んぼの中では、小さな生き物たちが生まれ、成長して、飛び立っていきます。イナゴや赤トンボやゲンゴロウの仲間などです。
 農業をしなければ、そこに「在る」と気付かなかった、感じることができなかった、多くの命と自然の移り変わりがありました。
 「日日是好日−『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」(森下典子著)という本を読んで、茶道に興味を持ち、習い始めました。細かくて決まり事の多い所作を、初めはとても面倒に感じていましたが、その動作が身に付いたときに、驚く感覚に出合います。それは、頭の中の思考が静かになっている状態。考えて動くのではなく、動きながらも静かに集中している状態でした。五感が研ぎ澄まされてきて、お湯が沸く音、外の風の音や雨の音が心地よく体に響いています。
 鎌倉時代には、「茶の湯」は禅を広めるために行われていたのだそうです。なるほど、禅やマインドフルネスに通じるものがあるのだと、納得しました。
 さらに、茶室には「気付き感じる」ことを促す仕組みがたくさんあります。季節のお花を飾ったり、季節によって掛け軸やお香入れを変えたり、お茶わんも季節と行事に合わせます。限られた茶室という空間に自然の変化を取り入れ、それらを「気付き感じる」ことが、豊かさの感覚につながるのだと、昔の人は知っていたのではないかと思います。
 自分の無意識の領域から、気付き感じて「在る」と意識できたときに、心の中に生まれる満たされた感覚が、豊かさなのかもしれません。
 だから、何かを手に入れなければ、豊かになれないと頑張る必要はないのだと思います。農と茶道が教えてくれた豊かさは、気付いて感じたら、いつも側に在るものでした。
(すずめ農園代表)


2020年07月27日月曜日


先頭に戻る