<まちかどエッセー・前川美穂>祖母に習うカビとの暮らし

[まえかわ・みほさん]1986年仙台市生まれ。弘前大で農学・生物学を学び、会社では微生物管理の仕事を経験。震災を機に地元仙台の実家に戻り、家族と「すずめ農園」を立ち上げる。お米を育てながら農体験イベントや発酵の講座を行う。現在は鍼灸(しんきゅう)師も務める。泉区在住。

 実家で改めて暮らすようになったとき、祖母が「みそを造るぞ」と言って、米こうじを仕込み始めたのには、大変驚きました。普通、家庭でみそを仕込むときには、大豆を煮て、買ってきた米こうじと塩を混ぜ合わせて造ります。こうじ菌はカビの仲間です。私は大学時代、カビを研究するゼミに在席していたので、カビの生態が少しは分かります。だからこそ、米こうじは、温度や湿度を管理できる特別な場所で造られて、こうじ屋さんやみそ屋さん、スーパーなどで買うものだと思っていました。自宅で造れるの?! 祖母は、「昔からこうやって造っていたんだ」と言って、米こうじの仕込み方を教えてくれました。
 蒸した白米を、きれいに拭いたゴザの上に広げます。熱が冷めたら、こうじ菌の種(胞子)を振りかけながらまんべんなく米を混ぜ合わせていきます。米をひとまとまりに集めたら、そのままゴザで包み、そのゴザを毛布や布団で包みます。ときどき混ぜてムラをなくし、酸素を送りながら、2〜3日布団の中で発酵させると米こうじの出来上がりです。
 祖母は、まるでこうじ菌と会話をするようにその2〜3日を過ごします。特別な道具も使わないし、温度や湿度も測りません。だから、手で感じる温度と、匂い、見た目、味を頼りにこうじのお世話をしていきます。布団に手を入れてみて、温度が低ければ湯たんぽを入れ、匂いを嗅いで順調だと判断し、見た目や食べた味で、出来上がりを決めています。
 微生物という目に見えない、言葉を持たない存在と、五感を使って会話する様子は、ご先祖さまの経験と知恵の結晶です。伝えられてきた暮らしなのだと思います。
 今の時期、夏バテや冷房による体の不調を整えるのにお薦めなのが、米こうじを発酵させて作る甘酒です。栄養価が高く、消化によく、必須アミノ酸とビタミンB群も豊富です。整腸作用があるので、胃腸が弱り、食欲がないときこそ、日常に取り入れたい伝統食です。私の祖母は、今年で92歳になりました。甘酒を豆乳で割った温かいドリンクを毎朝飲んで、畑仕事や裁縫に精を出しています。
(すずめ農園代表)


2020年08月17日月曜日


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