<まちかどエッセー・小林隆>オノマトペ好きの東北人

小林隆[こばやし・たかし]さん 東北大方言研究センター教授。1957年新潟県生まれ。東北大国語学研究室を経て国立国語研究所研究員。2004年東北大文学部教授。博士(文学)。専門は方言学。著書に『ものの言いかた西東』(岩波新書)、『とうほく方言の泉』(河北新報出版センター)など。仙台市青葉区在住。

 グイラ、ズイラ、ビラリ、ビョット、ベアラ、ベロット、ボエラ、ボッコリ…。なんともユーモラスな言葉だが、これらが何を表すかご存じだろうか。実はいずれも「急に」「突然」といった意味の東北方言である。例えば、「グイラ曲がった」「ビョット飛び出した」などと使用する。
 東北人はこうしたオノマトペが大好きで、会話のあちこちに登場する。共通語であれば「急に」「突然」などと一般的な言葉を使うところを、グイラ、ビョットのようなオノマトペで表現したがる。「大声で泣く様子」も、西日本では「ひどく(泣く)」とか「わめく」などと言うことが多いのに対し、東日本、特に東北では、オエンオエン、オンエオンエ、オインオイン、オンイオンイなど独特のオノマトペが使われている。
 オノマトペの役割は、目に見える様子、耳に聞こえるものをいかにもそれらしく表現することにある。つまり、リアリティーの追求がオノマトペの使命なのである。東北人は、この点で現場密着型の描写を好むということができる。もちろん、共通語にもオノマトペはある。だがどうか。「大声で泣く様子」の共通語はワンワンであろう。しかし、ワンワンは「犬の鳴き声」でもある。共通語のオノマトペは、人も犬も区別しない大ざっぱさがある。オエンオエンがもつ、今、そこで泣いているかのような味を出すことは難しい。
 土井晩翠夫人の八枝氏が著した『仙台の方言』(一九三八)には、オノマトペのコーナーが設けられている。高知県出身の彼女は、仙台弁の面白さ、特にオノマトペの豊富さに興味を引かれたらしい。例えば、共通語の「のろのろ」に対しては、ノロラノロラ、ノララノララ、ノロラクララ、ノララクララ、ノサラノサラ、ノサラクサラと、六つもの形が挙がっている。現実には、同じのろのろ加減でも微妙な違いがある。そのちょっとした違いにこだわり表現し分ける方言の姿を、八枝氏は見逃さなかったに違いない。
 共通語では表しきれない現象の細部をオノマトペで再現してみせる。東北人は音で世界を描き出す天才かもしれない。
(東北大方言研究センター教授)


2020年10月12日月曜日


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