<奥羽の義 戊辰150年>連載終了に寄せて 郷土に自信と誇り持って 木村紀夫(郷土史家)

【きむら・のりおさん】1940年、仙台市生まれ。民間企業を定年退職後、戊辰戦争の取材を続けているほか、宮城県内外で講演を行う。仙台郷土研究会会員。一般社団法人「心のふるさと創生会議」常務理事。著書に「仙台藩の戊辰戦争 東北諸藩幕末戦記」「同 幕末維新人物録」

 「奥羽の義」は各地への丹念な取材と写真によって戊辰戦争の実態を鋭くえぐり出している。東北・北越での戦いは奥羽越列藩同盟側と政府軍合わせて244藩の17万人が参戦した。半年にもおよぶ大戦争となり、両軍合わせて1万3575人もの犠牲者を出した。
 仙台藩は直臣の本隊と、70余の領主、邑主(ゆうしゅ)の家臣団が参戦し、計1万4000余人が各地で戦った。紙面からは、先人たちの掲げた思いと無念さが強く伝わってきた。
 なぜこのような戦争が起きたのか、奥羽の史実から見たい。
 幕府から政権の返上を受けた天皇は、「新体制」を諸侯会議の合議によって定めるとした。だが武力討幕を目指す薩摩、長州両藩は軍事クーデターで「王政復古」の維新政権を作った。
 薩長政権は会津、庄内両藩を朝敵として征討戦を強行した。過去の遺恨による私怨(しえん)としか思えない。奥羽諸藩は両藩の救済に努めるが許されず、次には自藩が襲われるとの危惧を深め、31藩で防衛のため列藩同盟を結んだ。
 奥羽諸藩の結束は会津救済に加え、薩長両藩を「天皇を操る君側の奸(かん)」として政権から除く狙いもあった。天皇による真の朝廷政権の実現と、「五箇条の御誓文」の公論衆議の実行という2点を大義に掲げた。
 では、征討戦を強行した維新政府の真意は何か。私は、実は政府が窮迫する財政事情から金、銀、銅、鉄、鉛など豊富に産出する奥羽の地下資源と、交易で外貨を稼いでいる上質な奥州生糸を強奪する狙いがあったとみている。つまりは経済戦争であり、奥羽諸藩がいかに救済を嘆願しても一顧だにされなかったのはそのためである。開戦して数カ月は互角の攻防戦であったが、洋式兵器と海軍力の差で列藩同盟は敗北に至った。
 降伏後、諸藩への仕置きは厳しく、盟主仙台藩への処分は過酷を極めた。仙台の再起を恐れた政府は、領内への公共投資はおろか民間の大型工業投資を認めず、経済の面からも再起不能にした。それが現在も続く仙台の支店経済を生んだ。
 宮城県は1872(明治5)年、政府から全国一の従順県と評され、中央政権への追従が顕著であったが、今はどうなのか。それをよく表すのが刑務所の存在だ。政府は伊達政宗の晩年の居城若林城(仙台市若林区)や駿府城(静岡市)、山形城(山形市)など七つの城跡に刑務所を置いたが、今も同じ場所に残っているのは宮城刑務所だけである。
 維新から1945(昭和20)年までの77年間は相次ぐ戦争に明け暮れ、日本は焦土と化した。維新後の薩長閥を中心とした政治が帝国主義や軍国主義への道を開く。戊辰戦争の勝敗は、わが国の方向を決定したといえる。
 奥羽越列藩同盟は戦いの目的を明確にして大義のために戦った。敗れたからといって何ら恥じることはない。「仙台藩は賊軍にあらず」なのである。
 「奥羽の義」が新たな視点から、戊辰戦争を問い直した意義は大きい。
 今を生きる若者たちには、150年前に仙台藩の果たした歴史を知って「郷土への自信と誇り」を持ってほしい。そのような社会づくりを市民と行政が真剣に取り組む時にきている。仙台はこれからだと思う。

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 連載「奥羽の義」は今回で終わります。生活文化部・酒井原雄平、写真部・岩野一英、鹿野智裕が担当しました。6月から写真企画「人 駅 一会」を掲載します。


◎主な参考資料・図書 
 ▽仙台市史▽石巻市史▽石巻の歴史▽河北町誌▽河南町史▽河南町誌▽柴田町史▽七ケ宿町史▽丸森町史▽矢島町史▽山形県史▽鶴岡市史▽会津若松史▽白河市史▽猪苗代町史▽只見町史▽新地町史▽田島町史▽下郷町史▽当別町史▽余市町史▽復古記(太政官編)▽仙台戊辰史(藤原相之助著)▽遠藤允信翁勤王事跡(栗原郡教育会編)▽旗巻古戦場記(阿部利三記)▽戊辰矢島戦記(佐藤佐之著)▽京都守護職仕末(山川浩著)▽会津戊辰戦史(会津戊辰戦史編纂会著)▽戊辰白河口戦争記(佐久間律堂著)▽二本松藩史(二本松藩史刊行会編)▽駒ケ嶺口戊辰戦史(鈴木留太郎著)▽戊辰役戦史(大山柏著)▽戊辰戦争(佐々木克著)▽江戸幕府崩壊(家近良樹著)▽幕末戊辰仙台藩の群像(栗原伸一郎著)▽仙台戊辰戦史(星亮一著)▽仙台藩の戊辰戦争(木村紀夫著)▽幕末・維新と仙台藩始末(千葉茂著)▽北越戦争 宮城・中津山の侍たち(阿部和夫著)▽新選組女ひとり旅(赤間倭子著)▽土方歳三みちのく転戦(橋本晶著)▽「ふるさとのかたりべ」第70号(石巻千石船の会発行)▽石巻日々新聞▽烏組隊長 細谷十太夫(江北散士編)▽旅客船No.246(日本旅客船協会発行)▽仙台藩士幕末世界一周(山本三郎著)▽柴田町の文化遺産 船岡編(日下龍生著)▽歴代宮司列伝(押木耿介著)▽大槻磐渓の世界(大島英介著)▽岩出山伊達家の北海道開拓移住(友田昌宏、菊地優子、高橋盛編)▽戊辰戦争古戦場めぐり(大仙市アーカイブス発行)▽庄内藩の戊辰戦争(阿部博行著)▽庄内藩(本間勝喜著)▽「戊辰戦争絵巻」を読む(致道博物館発行)▽戊辰戦争における新徴組・新整組(今野章著)▽新徴組(小山松勝一郎著)▽酒井玄蕃の明治(坂本守正著)▽勤王家吉田大八先生(佐々木忠蔵編)▽会津戊辰戦死者埋葬の虚と実(野口信一著)▽小松獅子今を語る(小松獅子保存会発行)▽小松獅子舞考(高久金市著)▽佐川官兵衛君父子之伝(横尾民蔵著)▽会津藩家老鬼官兵衛ゆく(会津武家屋敷、好故館、会津藩校日新館編)▽戊辰白河戦争(白河市、白河戊辰一五〇周年記念事業実行委員会発行)▽白河大戦争(白川悠紀著)▽いわきの戊辰戦争(夏井芳徳著)▽磐城三藩の戊辰戦争(上妻又四郎著)▽世良修蔵(谷林博著)


2019年05月26日日曜日


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