<裁判員裁判・東北の10年>第1部 経験の後で(3)余波/悩み考え参加 残る負い目

裁判所から配られる心のサポートの案内文書。判決後も重荷を背負う元裁判員は多い(写真は一部加工しています)

 裁判員の脳裏に焼き付いたのは、被告の表情でも遺族の涙でもない。血の海に横たわる被害者の遺体写真だった。

<遺体大写し>
 福島地裁郡山支部で2013年3月にあった強盗殺人事件の裁判員裁判で、裁判員を務めた郡山市の60代女性は判決の8日後、急性ストレス障害と診断された。今も通院している。
 公判初日の証拠調べでは遺体や殺害現場のカラー写真が目の前のモニターに大写しされ、絶命直前に119番で助けを求める被害者の音声も再生された。女性は休憩中に嘔吐(おうと)した。
 体調不良を押して加わった評議で、下した判決は死刑。言いようのない罪悪感にさいなまれた。
 「苦しむ人は私で最後にしてほしい」。裁判員制度の是非を問うため、国に損害賠償を求める訴訟を起こして最高裁まで争ったが、16年に敗訴が確定した。
 二審の仙台高裁判決は「遺体写真は立証に必要だった」とする一方、「裁判員の負担軽減は議論を要する」と女性の思いを酌んだ。
 余波は大きかった。その後の裁判員裁判では裁判員への配慮が徹底した。
 裁判所は遺体や傷口の証拠写真を示す場合、白黒加工するかイラスト化するよう検察側に要請した。審理は裁判員の体調を気遣い、1時間を目安に短い休憩を挟むのが基本となった。
 一部の地裁では、判決後に裁判官らが庁舎玄関に並んで裁判員を「お見送り」する慣例もある。開始当初はなかったこれらの配慮に対する裁判員の評価は上々だ。

<自信を失う>
 最高裁が実施した17年の裁判員経験者アンケートでは、参加前は「やりたくない」が47.0%で「やってみたい」を10ポイント上回ったが、参加後は「良い経験だった」が96.3%を占めた。裁判所の対応も74.4%が「適切」と答えた。
 アンケートは判決言い渡し直後の余韻や高揚感が残る中で記入する。その後の心境の変化は考慮されていない。
 「帰宅してから、本当に正しい判決だったのか分からなくなってしまって」
 仙台地裁で18年3月にあった強盗致傷ほう助事件の公判で裁判員を務めた仙台市の40代男性が明かす。「以前から裁判員をやってみたかった」といい、仕事を休むことに難色を示す職場の上司を説得して参加した。
 評議では気後れせず自分の考えを述べた。「積極的に意見を言う裁判員と、最低限のことしか発言しない裁判員がいて偏りを感じた」と振り返る。
 判決は「ほとんど思い通りの結論だった」が、時がたつにつれて刑が重くなるような意見に固執した自分の考えに自信を失った。「あんなに発言しなければ、被告はもっと短い刑期で済んだかもしれない」との思いにとらわれた。
 将来、再び裁判員に選ばれる可能性はゼロではない。「極刑や無期懲役が想定される重い裁判にだけは参加したくない。今度は落ち込む程度じゃ済まないだろうから」。男性は沈んだ声で語った。


2019年04月25日木曜日


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