<裁判員裁判・東北の10年>第2部 理想の実相(3)差異/法廷供述重視 検察に不満

公判中心主義の徹底で捜査現場も変化を迫られた=仙台地・高検

 「取り調べで少なからず捜査員の誘導があったと認められる」
 青森地裁で昨年12月〜今年1月にあった現住建造物等放火事件の裁判員裁判。被告は妻の同僚のアパートに放火したとして起訴されたが、判決は「第三者の犯行の可能性が拭えない」と判断、懲役8年の求刑に対し無罪を言い渡した。

<「証拠の王」>
 弁護人は「自白偏重の捜査が生んだ矛盾を裁判員は冷静に見てくれた」と高く評価した。判決は捜査側が描く事件像に沿って被告の自白調書が作られた可能性があると指摘。現場にあったとされるガソリン入り容器の目撃者はおらず、容器を使った犯行との検察側主張を「不自然」と排した。
 自白調書は「証拠の王」と呼ばれ長年、有罪の重要な根拠だった。法廷で語られた内容を重視する裁判員制度の導入で、その位置付けは揺らいだ。
 裁判員裁判では、捜査段階の供述調書と同じ内容でも被告の法廷供述を優先的に扱う。調書は、やむを得ない事情がない限り証拠採用されない。
 裁判所が調書に厳しい目を向けるのは、自白の強要を見逃して多くの冤罪(えんざい)事件を生んだ「調書裁判」を繰り返さないための自戒でもある。調書に対し「捜査員が聞き取った内容を体裁よくまとめた作文」(東北のベテラン判事)との疑念が根強い。
 それでも警察や検察が捜査で最も力を注ぐのが、供述を得る取り調べであることに今も変わりはない。

<現場へ助言>
 宮城県警は裁判員制度の開始を控えた2006年、臨床心理士の資格を持つ心理捜査官を本部や各署に配置。捜査員への助言を通し、容疑者との関係構築や自発的な供述を促す質問の仕方を伝えている。
 「粘り強い取り調べの先に秘密の暴露があり、それが事件の全容解明につながる」。こう言い切る県警幹部は「容疑者が人が変わったように自白して、ほっとした表情をしてくれた時の達成感は格別だ」と語る。
 裁判員裁判の対象事件では取り調べの録音・録画が試行されてきたが、6月から全過程で義務化される。「カメラの奥の弁護人や裁判員を納得させる」(県警幹部)ため、捜査当局は試行錯誤を続ける。
 17年に仙台地裁であった傷害致死・死体遺棄事件の裁判員裁判は自白調書を証拠採用し、信用性があるとして有罪認定した。傷害致死に関し「暴行して死なせた事実はない」と無罪主張した被告の法廷供述は「殺してしまった」という調書の内容と大きく異なった。
 公判では被告の自白場面を録画した映像が流され、検察側は被告が自らの意思で自白したと強調した。弁護側は「自白は誘導だ」と調書の証拠採用に反対したが、裁判官3人は裁判員の意見も踏まえ採用した。
 「公益の代表者」とも称される検察官は起訴権限を独占し、公判では挙証・立証責任を負う。検察官が作成した調書は警察官の調書より信用性が高いとされ、検察側は調書に強いこだわりを持つ。
 「密室(取調室)の真剣勝負で向き合うから話せる真相もある。法廷での供述が必ずしも真実とは限らない」。東北勤務のベテラン検事は、調書軽視の風潮に不満を示す。


2019年05月10日金曜日


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