<裁判員裁判・東北の10年>第3部 模索の果て(下)未完/参加の意味 顧みる契機に

裁判員に配られる記念バッジ。シンボルマークは裁判員と裁判官の交わりをイメージした

 「被告人は、無罪」
 裁判長が判決主文を読み上げると、法廷がざわついた。被告は涙を拭った。
 2011年9月、仙台地裁は殺人罪に問われた事件当時少年の裁判で、裁判員裁判では東北初の無罪判決を言い渡した。後に仙台高裁で確定した。
 被告は1999年、共犯者3人と共謀し、男性の首をロープで絞めるなどして殺害したとして起訴された。物証はほとんどなく、事件首謀者の男の証言の信用性が争点だった。
 2011年3月に始まった公判は東日本大震災で中断された。同8月に新たに選任された裁判員は、最終盤に入りつつあった中断前の審理を収録した映像を5日間、法廷で視聴し続けて有罪か無罪かを判断する異例の展開となった。
 主任弁護人を務めた斎藤拓生弁護士(60)=仙台弁護士会=は最終弁論で「自信を持ち、自分の常識に従って判断してください。皆さんが刑事裁判に参加する意味はそこにある」と、長時間の視聴で疲れ気味の裁判員らに語り掛けた。

<常識を反映>
 裁判員が刑事裁判に参加する意味とは何か。
 裁判員制度の導入を提言した政府の司法制度改革審議会の意見書(01年)には「司法が国民の権利と自由の保障を担保し、法秩序を維持する役割を遂行するためには、国民の広い支持と理解が必要」と記されている。
 「弁護士は裁判員の常識を反映することで冤罪(えんざい)を生まない刑事裁判が実現されることを期待した。制度施行10年の節目は、何のための裁判員裁判かという原点を顧みる機会になってほしい」。斎藤弁護士は訴える。
 4月まで仙台高検次席検事を務めた大図明前橋地検検事正(58)は制度開始前後、仙台地検公判部長として裁判員裁判向けの立証技術の向上を主導した。「国民に受け入れられる裁判の在り方について、本気の議論を重ねた」と振り返る。
 裁判員裁判は公判前整理手続きで絞り込まれた証拠や争点への判断を示す「核心司法」が基本だが、従来の裁判より情報がそぎ落とされることへの違和感は検察、弁護側に根強かった。
 大図検事正は「分かりやすい立証に配慮しつつ、被告や被害者が納得できる審理内容なのかという視点で議論を深め続けなければならない」と語る。

<判決に厚み>
 宮田祥次仙台高裁事務局長(48)も制度開始時、仙台地裁刑事部判事として準備に奔走した。前任の福島地裁刑事部では裁判長を務めた。
 「誠実に事件に取り組む裁判員の姿勢には、いつも頭が下がった。裁判官が法律のプロなら裁判員は社会人のプロ。裁判員裁判はプロ同士の共同作業だからこそ判決に厚みが出る」と言い切る。
 10年を経て、裁判員選任手続きへの出席率は低迷している。制度に対する市民の理解や関心は高くないが悲観はしていない。「裁判員経験者は少しずつ増えて社会に広がる。制度の根付きは長い目で考えていきたい」と未完の裁判員制度の今後に期待する。


 連載「裁判員裁判 東北の10年」は今回で終了します。(裁判員裁判取材班)


2019年05月19日日曜日


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