亡き仲間の思いを共に 孫兵衛船で聖火リレー

旧北上川を望む石巻地区消防本部の屋上で、聖火リレーへの思いを語る小泉さん=宮城県石巻市

 2020年東京五輪の聖火リレーで宮城県石巻市のコースに設けられた特殊区間は、聖火を載せたカッターボート「孫兵衛船」=?=が旧北上川を渡る。「活気が戻りつつある街の姿を発信できる」。孫兵衛船のレースに長年参加してきた石巻地区消防本部の小泉大輔さん(39)=石巻消防署南分署=は、東日本大震災で失ったチームメートへの思いと自らの被災体験を胸に聖火を運ぶ日を夢見る。

◎石巻消防 小泉さん/こぎ手への抜てき期待

 市内最大の行事「石巻川開き祭り」で繰り広げられる孫兵衛船競漕(きょうそう)で、小泉さんが率いる職場のチームは今年、11年ぶりの優勝を果たした。小泉さんは15年ほど前から同僚とレースに出場し5年前に監督に就いた。
 孫兵衛船競漕の会場で、特殊区間のコースにもなる旧北上川河口。小泉さんにとって、その風景は震災の記憶と重なる。
 あの日、小泉さんは急病患者の搬送に当たっていた。石巻市立病院から渡波地区の職場に戻る際、避難する車の渋滞に巻き込まれた。救急車を降り交通整理をしていると、旧北上川を遡上(そじょう)し堤防からあふれ出る津波にのまれた。
 全身ずぶぬれになりながら、ようやくつかまった立ち木によじ登り難を逃れた。普段は悠々と流れる川がどす黒くなり、車や家を流していく光景を「ただただ見つめるしかなかった」。悔しさは今でも消えない。
 孫兵衛船のオールを一緒に握った後輩の千葉正章さん=当時(25)=は津波の犠牲になった。夜勤明けの非番、海沿いの同市北上町十三浜の自宅で巻き込まれたとみられる。
 千葉さんは石巻消防署に配属された2009年から孫兵衛船競漕に参加した。ムードメーカーで若手のリーダー格。その年、チームは8連覇を逃し、千葉さんは孫兵衛競漕で一度も優勝を勝ち取ったことがないまま、帰らぬ人となった。
 「もし生きていれば、チームの核になってくれていただろう」と小泉さんは仲間の死を悼む。
 孫兵衛船が登場するのは宮城県内を走る聖火リレー初日の6月20日。まだこぎ手は決まっていない。「聖火を運ぶ大役を担えたらうれしい」。孫兵衛船をこぐ千葉さんの姿を胸に、聖火を運ぶ瞬間に思いをはせる。


[孫兵衛船]石巻市の石巻川開き祭りの水上行事として1975年に始まったレースに登場するボート。江戸時代、旧北上川改修で石巻の基礎を築いた川村孫兵衛をたたえて名付けられた。孫兵衛船競漕は市内の企業などがチーム(12人)を組み、旧北上川の400メートル区間でタイムを競う。2019年は女性部門を合わせて61チームが出場した。


2019年12月30日月曜日


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