第2部 規制と推進(2)「喪明け」 望む空気強く

東北電力東通原発敷地を調べる原子力規制委員会有識者会合の関係者ら。活断層の有無を巡り議論が続く=2012年12月、青森県東通村

 規制当局に対する「宣戦布告」のようだった。
 2013年5月、日本原子力発電は敦賀原発2号機(福井県)直下に活断層があると断じた原子力規制委員会有識者会合の専門家らに文書を送った。「厳重抗議」と題し、会合の運営方法や結論を強い文言で批判した。
 「当社の主張が先生(専門家)方にほとんど無視された」。原子力規制庁に乗り込んだ浜田康男社長(当時)は、報道陣の前で不満をぶちまけた。原子炉直下に活断層があれば、原発は動かせない。原発専業で電力卸売りを手掛ける同社にとって、原発稼働の可否は死活問題に直結する。
 敦賀原発は旧原子力安全・保安院が12年8月、敷地内の断層について掘削などの追加調査が必要と判断した全国6原発の一つ。翌月に保安院が廃止され、規制委が対応を引き継いだ。
 6原発には東北電力東通原発(青森県東通村)も含まれる。規制委の有識者会合は15年3月、同原発敷地内の主要断層2本について「活動性は否定できない」と結論づけた。東北電は「議論が尽くされていない」と反発した。
 2原発に関する活断層の有無は、規制委による新規制基準適合性審査の場で現在も議論が続く。

 一連の断層調査は有識者会合で座長役を務めた島崎邦彦規制委員長代理(当時)が率いた。地震学者として福島沖などへの大津波襲来の可能性を示す国の地震予測「長期評価」の策定に関わりながら、東京電力福島第1原発事故を防げなかったことを悔いていた。
 「科学的判断のみが重要だ。再稼働やエネルギー、経済、社会的問題は一切考えないでほしい」。東通の断層を巡る12年11月の初会合で、島崎氏は専門家らにくぎを刺した。原発事故の教訓から事業者には終始厳格な姿勢で臨み、「規制委は『活断層狩り』に奔走している」(青森県議)など多くの苦言にさらされた。
 島崎氏は14年9月に任期満了を迎え、規制委員を退任した。委員の選任や再任には国会の同意が必要。与党の一部に島崎氏の交代を求める声があった。「政治的圧力による退任」との見方を、島崎氏自身は否定している。

 規制委の周りに波風は立ち続ける。再稼働の前提となる新規制基準適合性審査が長期化しているためだ。
 審査を申請した16原発27基のうち9原発16基が合格したが、その後の手続きも経て再稼働したのは5原発9基。3原発5基は新規制基準が求めるテロ対策施設の設置遅れや運転禁止の司法判断で停止するなど、19日現在で運転を続けるのは2原発2基にとどまる。
 原発事故から9年半が過ぎ、原発推進の関係者の間で「喪明け」を望む空気は強まっている。
 今年7月に開かれた政府の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会。元経産省幹部で日本エネルギー経済研究所理事長の豊田正和委員は、規制委の審査で再稼働が進まない現状を独自の例えで表現した。
 「日本の原子力規制は『飛ばない飛行機』を作っていくことになりかねない。飛ばない飛行機は安全だが機能は果たさない」
 規制委に向けられる視線はさらに厳しさを増す。


2020年10月20日火曜日


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