岩手のニュース

<大槌町>旧役場庁舎問題 解体するか、保存するか 対論

大槌町長 平野公三氏
おおづちの未来と命を考える会代表 高橋英悟氏

 東日本大震災の津波で当時の町長と職員の計40人が犠牲になった岩手県大槌町旧役場庁舎の保存、解体を巡り、町内で議論が再燃している。解体関連予算案を3月定例町議会に提出する構えの平野公三町長(61)に対し、「おおづちの未来と命を考える会」の高橋英悟代表(45)は拙速な解体に警鐘を鳴らす。両者の主張をまとめた。(釜石支局・東野滋)

◎解体/公約の実行決断の時 大槌町長 平野公三氏(61)

 旧庁舎を目にすることで耐え難い思いをする人に寄り添い、解体を目指す。これ以上「我慢してくれ」とは言えない。(震災当時の総務課職員で旧庁舎にいて生き残った)私が見たくないから壊すわけではない。
 町長選のパンフレットに旧庁舎解体は明記しなかったが、選挙中に訴えたので公約だと認識している。賛同した人が票を入れた結果、当選できた。
 その町長選から2年半が過ぎた。解体関連予算案の提出を先送りし、町議会が優先するよう求めた震災対応の再検証などの課題に一定の答えを出し、一つ一つ不安をクリアしてきた。
 同時に町民のさまざまな意見に耳を傾け、早期の解体を求める声は多いと感じた。賛否があることを承知した上で、リーダーとして決断しなければいけない。
 震災後に痛感したのは、役場に防災の専任職員を置くことの重要性だった。津波が来るとの情報がありながら、的確な対応ができなかったのは、当時、防災担当を兼務していた自分の落ち度であり、反省している。職務をきちんと全うしなかった結果、多くの仲間を亡くした責任がある。
 旧庁舎の保存が戒めになるとの意見はあるが、現在の町職員の半数以上は旧庁舎時代を知らない。危機管理能力を高め、取り組みの背景に悲劇があると若手に伝えるのが何より大事だ。
 さらに身元不明者の納骨堂や「鎮魂の森」などの各種事業により、震災を忘れない、伝える、備えることを推進していく。
 解体費は新年度当初予算案とは別に補正予算案で提出する。議員にしっかり向き合ってもらい、まちづくりの観点から賛否を判断してほしい。おおづちの未来と命を考える会とは相いれない主張だが、旧庁舎問題以外のテーマでは意見交換して協力できると思う。


◎保存/町の犠牲者祈る場に おおづちの未来と命を考える会代表 高橋英悟氏(45)

 町長が解体関連予算案を提出すると表明した後、賛否を問わず、何人もの町民が私の所に来た。保存を痛切に訴える町職員遺族もいた。旧庁舎について沈黙してきた人たちが、今ようやく声を上げ始めている。
 多様な意見を聞き、壊すよりも先にやることがあると強く感じるようになった。多くの声を集め、大槌の未来のために何をすべきなのか立ち止まって考えなければいけない。会の設立は、解体にマルかバツかを超えた問題提起だ。
 漁業や商業の再生をはじめ、大槌がどうやって生きていくのかの議論が不足している。人々が安心して暮らすには何が必要か。どうやって未来の命を守るのか。町の将来を担う子どもたちも、大人が震災にどう向き合うかを見ている。
 目にするのがつらい気持ちは十分に分かるが、旧庁舎は一目で津波の威力を伝える。痛みを伴う建物だからこそ、悲劇を繰り返してはいけないとの戒めになる。わざわざ展示施設へ見に行かなければ触れられない映像とは全く異なる。
 時間の経過とともに人は楽な方に流れる。津波のことを考えなくなり、口伝も途絶える。過去の石碑がいい例だ。三陸地方は数十年に1回は津波に襲われるのに、震災の津波を「千年に一度」と言う人がいる。風化は既に進んでいる。
 保存か解体かを町長選の争点にしたのは間違いだった。見たくない人のため、周囲に木を植えて旧庁舎を当面保存したらどうか。「鎮魂の森」や身元不明者の納骨堂などと共に震災を伝え、現在と過去を未来につなぐ施設になり得る。
 旧庁舎は1285人の町民犠牲者のために祈る場だ。町民が普段忘れている命の大切さ、生きていることの幸せに気付き、大事な人をどう守るかを考える場にすべきだ。


[大槌町旧役場庁舎]前町長は一部を保存して震災遺構とする方針だったが、2015年8月の町長選で解体方針を掲げる平野公三氏が初当選。同年12月の定例町議会に提出を目指した解体関連予算案は議会の要請を受けて先送りし、16年11月に「当面凍結」とした。17年12月、再び解体関連予算案の提出を表明。町は、保存する場合の維持管理費を年間最大120万円と試算する。


関連ページ: 岩手 政治・行政

2018年02月22日木曜日


先頭に戻る