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自殺させない 秋田「蜘蛛の糸」の16年(下)共働/官民で悲しみと戦う

自殺をテーマに講演する佐藤理事長。重い話になりがちなテーマだが、時に笑わせて聴衆を引き込んだ=2017年12月、秋田市

 厚生労働省の人口動態統計による秋田県の2016年の自殺率(人口10万当たりの自殺者数)は23.8。全国ワーストだ。14年に20年ぶりに最下位を脱したものの、翌年には「定位置」に戻った。

<市町村が前面に>
 自殺対策基本法が制定された06年、県の自殺者は482人。自殺率は42.7と、全国の23.7との差が大きかった。それが、16年には自殺者が240人になり、自殺率の差は7ポイントに縮まった。
 「統計上は同じワーストでも、組織も対策もなかった頃とは内容が違う」。秋田市のNPO法人「蜘蛛(くも)の糸」理事長の佐藤久男さん(74)は言う。
 しかし、大きく減ったとはいえ、亡くなる人は絶えない。課題の一つが高齢者だ。16年の年代別の自殺率は70代が36.0、80歳以上が30.2。全国はそれぞれ20.5、20.7で差は歴然だ。「年齢が上がるにつれて未来を喪失した感覚になる。そこに、経済問題や健康問題などが絡む」。佐藤さんは難しさを認める。
 折しも自殺対策基本法が16年に改正され、都道府県と市町村が地域に合わせた自殺対策計画を策定することが盛り込まれた。市町村が、より前面に出る環境が整った。
 自殺の多くは過労や事業不振、人間関係など複数の要因が複合的に連鎖し、最後はうつ状態になり命を絶つとされる。「とりわけ高齢者や生活困窮者の問題は、身近な市町村でないと解決できない」と指摘する。

<井戸掘り続ける>
 蜘蛛の糸は08年に秋田市中心部に事務所を構え、15年からは県の補助を得て「いのちの総合相談会」を毎月開催する。佐藤さん個人は数千件規模の相談を扱ってきた。それでも、「相談がなければ、問題を抱えているのかどうかが分からない」と漏らす。
 基本法制定当時からの取り組みを「川を流れる人を救う対症療法だった」と振り返る。思ったよりも手応えがないことを「砂漠で井戸を掘っているようだ」と例える。
 次の段階に進むため、他県を圧倒する約60もの県内の民間団体が連携し、市町村と共働する構想を思い描く。具体的には、民間団体のメンバーが講師となり、地域住民や自治体職員のスキルアップを図る活動などを想定している。
 「秋田は民間の活動が活発。その民間と行政とが連携した地域づくりが必要だ」。自殺対策を一部の人ではなく、県民が自分の問題として取り組むことが大切だと考える。
 佐藤さんはかつて、経営する会社の倒産でうつ病となり、自殺する幻覚も見た。絶望の淵に立たされた当時を思い起こし、自殺防止は「悲しむ遺族をつくらないための戦いだ」と心に刻む。
 「長い長い戦いになる」。覚悟を決めて、新たな井戸を掘り続ける。
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 自殺率(人口10万当たりの自殺者数)が全国ワーストの秋田県には対策に当たる民間団体が約60あり、民間主導の「秋田モデル」と呼ばれる民学官連携の取り組みが根付いている。先駆的な活動をするNPO法人「蜘蛛(くも)の糸」(秋田市)理事長の佐藤久男さん(74)は弁護士や臨床心理士らによる「いのちの総合相談会」を毎月開き、多重債務や心の悩みなどに対応している。自らの倒産体験と仲間の死を機に挑み始めた自殺防止の歩みを追った。(秋田総局・渡辺晋輔)


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2018年02月26日月曜日


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