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自殺させない 秋田「蜘蛛の糸」の16年(上)再起/倒産経験 心の支援を

事務所を構える前、秋田市にある市民活動の拠点施設「遊学舎」の一室を借りて相談を受けた=2003年ごろ(佐藤さん提供)

 自殺率(人口10万当たりの自殺者数)が全国ワーストの秋田県には対策に当たる民間団体が約60あり、民間主導の「秋田モデル」と呼ばれる民学官連携の取り組みが根付いている。先駆的な活動をするNPO法人「蜘蛛(くも)の糸」(秋田市)理事長の佐藤久男さん(74)は弁護士や臨床心理士らによる「いのちの総合相談会」を毎月開き、多重債務や心の悩みなどに対応している。自らの倒産体験と仲間の死を機に挑み始めた自殺防止の歩みを追った。(秋田総局・渡辺晋輔)

<放っておけない>
 2000年10月2日。佐藤さんが20年以上にわたって心血を注いだ秋田不動産情報センターが倒産した。
 県職員や会社員を経て、幼少期に亡くした父と同じ経営者になろうと34歳で企業経営を始めた。別の1社と合わせて、年商15億円、従業員40人規模と県内では中堅だった。しかし、バブル崩壊後の長引く景気低迷のあおりで経営は厳しくなり、万策が尽きた。
 倒産後、過酷な体験が続いた。自宅は競売にかけられ、友人も去った。絶望感と喪失感からうつ病を発症し、木の枝から首をつる幻覚や「死ねば楽になる」とささやく幻聴に苦しんだ。
 01年5月、1本の電話が鳴った。伝えられたのは経営者の友人の自殺。驚きは、やがて怒りに変わった。
 「倒産で経営者が死ぬのを放っていいのか」
 戦後経済を支えてきたのは無数の中小企業。ましてや地域は小さな企業の連合体だ。それなのに…。
 部屋にこもる日々が続いた。心の支えは、読書で出合った数々の短いフレーズだった。
 「勇気を失ったのは全てを失ったことだ! 生まれてこなかったほうが良かっただろう」(一部抜粋)
 詩人ゲーテの言葉が、張りつめていた心に染みた。自分は勇気を失った男なんだ、と。生きるか死ぬかの瀬戸際で、自らに問い掛けた言葉が奮い立たせてくれた。

<携帯一つで活動>
 「倒産は経済行為の失敗。後始末は財産の清算であって、命の清算ではない」。経営者の自殺を防ぐことを決意し、02年6月に蜘蛛の糸を設立。1人で活動を始めた。
 当初は経営のアドバイスを中心に据えた。ところが、岩手県から訪れた工事業者は自社の財務分析の途中で、「役に立たない」という表情で席を立ってしまった。知りたかったのは、倒産で経営者の心理がどう変わるか、身近で何が起きるのか、なのだと気付かされた。以降はメンタルの支援を重視し、秋田大の公開講座に通うなどして自殺予防を深く学んだ。
 携帯電話一つで受け始めた相談業務は、開始から5年間で面談などを含め約1000回を超えた。「あの時の相談のおかげで、今も元気でいます」。相談者からの電話に、思わず涙がこぼれた。「自らの経験で人の命を救える」。そう実感できた。


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2018年02月24日土曜日


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