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自殺させない 秋田「蜘蛛の糸」の16年(中)転換/連携機に社会問題化

秋田市中心部に構えた事務所で毎月開催している「いのちの総合相談会」。今は相談員がローテーションを組んで対応している

 2002年に設立した秋田市のNPO法人「蜘蛛(くも)の糸」が取り組む自殺防止の相談は当初、報道を通じて広く知られるようになった。当時インターネット上に公開した理事長佐藤久男さん(74)の携帯電話には、秋田県内外からの依頼がひっきりなしにかかった。

<過労 2度倒れる>
 「死ぬ日を決めているが、テレビで見た佐藤さんを一目見て死にたい」。2009年5月、千葉県から来たという男性から電話があった。佐藤さんは男性を死に追い込まないという一点に絞って何日も相談を受けた。やがて、男性の死にたいという気持ちは、生きたいに変わった。死ぬと決めた日は過ぎていた。
 死にたい気持ちが心に蓄積すると、「死」へと引っ張られる。そうなると、生きたい気持ちを取り戻すには時間がかかる。「相手の気持ちが切り替わるきっかけを待つ」と説明する。
 相談が集中すると、1日に6〜8時間かけて3、4人と向き合った。相手は性別や年齢、学歴に加え、取り巻く状況や生死の価値観など全てが異なる。面談には、相談者の生死が懸かっている。真正面から受け止めた結果、佐藤さんは極度の過労で2度倒れた。
 1998年、国内の自殺者は3万人を超えた。前年より一気に8261人増えた。数字が跳ね上がるさまを、佐藤さんは「魔の活断層」と表現する。
 当時、自殺は個人の問題で、社会が干渉すべきではないという風潮があった。自殺の背後に社会的要因があると感じていた佐藤さんは、自らの取り組みが世間から浮いている感覚を拭えないでいた。

<「国家的な損失」>
 2005年5月30日、そんな社会の認識が百八十度転換する契機が訪れる。「自殺対策支援センターライフリンク」(東京)が参院議員会館で開いたシンポジウム。全国で自殺防止に取り組む関係者や遺族が集まった。佐藤さんは当時の尾辻秀久厚生労働相や国会議員らに、こう訴えた。
 「3万人が亡くなることは、同じ人口の男鹿市が毎年一つずつ減ることだ。これが個人の問題なのか。国家的な損失だ」
 シンポジウムは翌06年の自殺対策基本法制定につながり、社会問題へと転換した。佐藤さんはシンポジウムを「日本の自殺対策の井戸を掘った」出来事だったと振り返る。
 県内では、民間団体の連携が動き始めた。同年12月、自殺防止に取り組む県内の民間9団体が緩やかに連携する「秋田・こころのネットワーク」が設立され、佐藤さんは初代会長に就任した。
 連携の輪は、現在29団体と11の個人に拡大。民間団体が主導する形で、行政と医療機関、大学と連携して「秋田モデル」と呼ばれる取り組みが全県に広がる。自殺者減少に貢献し、自殺率(人口10万当たりの自殺者数)は全国水準に近づいてきた。
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 自殺率(人口10万当たりの自殺者数)が全国ワーストの秋田県には対策に当たる民間団体が約60あり、民間主導の「秋田モデル」と呼ばれる民学官連携の取り組みが根付いている。先駆的な活動をするNPO法人「蜘蛛(くも)の糸」(秋田市)理事長の佐藤久男さん(74)は弁護士や臨床心理士らによる「いのちの総合相談会」を毎月開き、多重債務や心の悩みなどに対応している。自らの倒産体験と仲間の死を機に挑み始めた自殺防止の歩みを追った。(秋田総局・渡辺晋輔)


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2018年02月25日日曜日


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