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<回顧3.11焦点>震災遺構 大災害の教訓として保存か取り壊しか 遺族の心、整理つかず

鉄骨の骨組みだけが残った宮城県南三陸町の防災対策庁舎=2011年7月16日
陸地に打ち上げられたままの大型漁船=2011年7月16日、宮城県気仙沼市のJR鹿折唐桑駅周辺
土台(右側)ごと倒壊した交番=2011年7月4日、宮城県女川町

◎宮城・南三陸町/息子は庁舎の屋上で津波にのまれた

 東日本大震災の発生から4カ月となった2011年7月11日、宮城県南三陸町の町防災対策庁舎前で、腕組みをした男性が、骨組みだけの庁舎を見上げていた。町職員だった息子は庁舎の屋上で津波にのまれ、命を落とした。
 町では、この庁舎を保存しようという話が持ち上がっている。
 「なぜ近くの高台に逃げられなかったのか。この建物を見るたびに悔しく、腹立たしくなる」。男性は庁舎を見つめたまま、強い口調で続けた。「遺族が1人でも反対するなら、建物を残すべきではない」
 屋上に避難した職員ら約30人のうち、助かったのはわずか10人。庁舎は町の被害の象徴となり、町内外から多くの人が慰霊や献花に訪れる。県外ナンバーの車や、庁舎をバックに記念撮影する光景も目立つ。
 地元では保存の是非をめぐり、賛否の声が交錯している。町役場内ですら一枚岩ではない。
 自身も庁舎屋上に避難し、かろうじて生き延びた佐藤仁町長は「大災害の教訓として、後世にモニュメントとして残しておいてはどうかと思う」と、保存に前向きな姿勢を示している。
 一方、町震災復興推進課は「犠牲者が出なかった施設ならば保存に理解も得られるだろうが、遺族はまだ気持ちの整理が付いていないと思う」と話し、微妙な温度差を見せる。
 6月末、津波で被災した宮城県内の建造物の保存を目指している宮城大の調査チームが防災対策庁舎を訪れた。
 「町の復興計画でメモリアル施設として位置づけてほしい」。庁舎の現況を確認後、保存を求めた調査チームのメンバーらに、立ち会った町の担当者は「建物そのものを残すというより、防災拠点となる残し方を考えてほしい」と切り返した。
 町には、庁舎の周辺一帯を公園化する構想がある。担当者が望んだ「防災拠点」とは、阪神大震災の教訓を後世に残すため、国内外の防災・減災研究機関や博物館などが設置された「人と防災未来センター」(神戸市)のような施設だ。
 「保存に賛否両論があるのは知っている」。宮城大調査チーム代表の三橋勇事業構想学部教授はこう述べた上で「保存を通じ、後世に津波の記憶を伝える意味は大きい。それを理解してほしい」と強調する。
 町震災復興推進課は「最後に決めるのは町民だ」と言い切る。町は復興基本計画策定に住民の声を反映させる「町民会議」の次回会合(22日)で、庁舎の保存も議題とする方針だ。

◎宮城・女川町、気仙沼/津波への認識が甘く、多くの犠牲者

 コンクリート製の基礎が根元から折れた交番、土台ごと横倒しになった4階建てのビル…。宮城県女川町内には津波で倒壊し、今も解体されていない建物が点在する。
 町の復興計画策定委員会(会長・鈴木浩福島大名誉教授)は6月、「津波による鉄筋ビルの倒壊は世界的にも珍しい」として、保存の方針を決めた。町は「メモリアル施設保存事業」と銘打ち、実現のための寄付をホームページなどで呼び掛けている。
 保存が検討されているのは倒壊した交番と2棟のビル。浸水した町営住宅なども候補として浮かんでいる。民間の施設もあるため、最終的な保存数は未定だ。
 町復興推進室は「津波への認識が甘く、多くの犠牲者を生んだ『失敗』を将来に伝えていかなければならない。そのためには奇麗な街づくりだけでは足りない。原爆ドームのように、恐ろしさをストレートに伝えるものが必要だ」と強調する。
 町は被災建造物に慰霊碑や広場などを併設した公園化を検討している。「財源的に町単独では無理」(復興推進室)なため、国や県の支援を要請する考えだ。
 気仙沼市のJR鹿折唐桑駅近く。がれきの中、津波で海岸から約600メートル流された大型漁船が陸地に打ち上げられたままになっている。
 菅原茂市長は6月、漁船を保存し、一帯を復興記念公園にする考えを表明。船主も理解を示し、予定していた船の解体を1〜2年、先送りした。
 市長の強い意向で保存に向けた検討が始まった格好だが、市水産課は「地区住民や地権者に説明し、同意を得てからの話だ」と語る。
 保存に対し、住民の間には「あの船に自宅をなぎ倒された」と複雑な感情も渦巻く。多数の漁船が陸に打ち上げられた津波被害を示す象徴として、価値を認める意見もあるという。=2011年7月21日河北新報
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 東日本大震災の直後から、被災地で暮らす市民の課題を取り上げた河北新報連載「焦点」。震災7年の節目に、発生翌年までの主な記事をまとめました。
=肩書や年齢は掲載当時のものです。=


2018年03月04日日曜日


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