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<仙台短編文学賞>「もう住所のないところへ、長い手紙を書くように書きました」入賞の村上サカナさん、震災の記憶を小説に昇華

「『あの時に小説を書いたから今生きていられる』って、何年後かに思うかもしれません」と語る村上さん=宮城県七ケ浜町

 「もう住所のないところへ、長い手紙を書くようにこの作品を書きました」。3月発表の第1回仙台短編文学賞(実行委員会主催)でプレスアート賞に選ばれた村上サカナさん(50)=筆名、宮城県七ケ浜町=が主催者に寄せた「受賞の言葉」が気になっていた。尋ねると陸前高田市出身。東日本大震災の津波で実家が流され、両親は行方不明だという。村上さんにとって小説は、封印した記憶を初めて言葉にする試みだった。
(生活文化部・阿曽恵)

<背後に自身の体験>
 受賞作「ごく限られた場所に降った雪」は、水道工務店を営む酒好きの父とおせっかいで屈託のない母、皇室好きの兄との日常を、サラリーマン家庭に憧れる中学生だった「私」が回想する物語。職場と近所の人を交えた人情喜劇は、町のぬくもりも伝える。
 選考委員の作家佐伯一麦さんは、選評でこの父親に触れ「最終候補作中最も印象に残る人物」と称した。回想を挟む物語の冒頭と結末には一転して不穏な空気が漂う。場面は約40年後、震災発生の翌日。兄妹は一緒の車で両親の安否確認に隣県の実家へと急ぐ。
 小説の背後にあるのは村上さん自身の体験だ。震災後、やっとたどり着いた古里の無残な光景に、叫び声を上げて取り乱した覚えはある。でも正確な日にちも前後の出来事も思い出せない。作中人物と同じく沿岸部で水道工事業を興した父信夫さん=当時(83)=と母ヨシ子さん=同(76)=は今も見つかっていない。
 「この7年、記憶にふたするように生活してきた。津波の映像はまだ見ることができない」と村上さんは話す。実家があった場所は既にかさ上げされ、将来は公園になるらしい。七ケ浜の高台の自宅で夫と高校生の娘2人、犬2匹と暮らす主婦。家の外で極力、震災の話題を避けてきた。

<心を整理したくて>
 転機は雑誌で見た公募の記事だった。「雷に打たれた感じ。小説を書きたいと思った」。20代で1度、文学賞に応募し最終選考に残ったことがある。半年間のシナリオ通信講座を受けた経験も。震災後は執筆欲も読書欲もうせていたが、にわかに意欲が満ちてきた。
 登場人物とプロットが固まると不思議に筆が進んだ。「本当のことは言いたいんだけど、やっぱり言えない。事実とフィクションを交えた小説が、私に一番合う表現手段だった」
 文学賞の応募総数は576編に上る。実行委は約8割に震災との関連がうかがえたという。土方正志代表は「震災文学に限定していないにもかかわらず、思いを吐き出したい、書かずにいられない人々がこれだけ反応した」とみる。
 村上さんが両親と最後に会ったのは2011年の正月すぎ。ヨシ子さんとはささいなことでけんかし、仲直りできずじまいだ。「自分の心を整理したくて小説を書いたのかな。両親に『ごめんね』と『ありがとう』を伝えたかったんです」

 村上さんの作品は5日発売の「Kappo仙台闊歩(かっぽ)」5月号に掲載される。


2018年04月03日火曜日


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