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「H氏賞」鹿角出身・十田さん、古里の神秘詩で表現 初の詩集で正教信者の苦難詠む

十田撓子(とだ・とうこ)1976年鹿角市生まれ。本名非公表。東京女子大文理学部卒。2017年に初の詩集「銘度利加」を刊行、18年に第68回H氏賞受賞。秋田市在住。

 秋田市在住の詩人十田撓子さん(41)の初の詩集「銘度利加(めとりか)」が、詩の芥川賞と呼ばれるH氏賞を受賞した。題名はハリストス正教会の受洗者名簿「メトリカ」の意味。出身地の鹿角市大湯には、明治時代に青森県の太平洋側につながる「来満(らいまん)街道」を通って正教会が伝来したとされる。戊辰戦争の敗残者らも往来したとし、十田さんは「地域の受け継がれなかった物語」をつづった。
 「さきの世で繋(つな)がる人たちはとうに立ち去った/とても遠い叫び声を/ずっと聞いていたような気がする」
 巻頭詩「銘度利加」の書き出しだ。大湯には明治時代に正教会の教会ができた。人々は救いを求めた一方、当時は迫害されたという。
 「乗りこんだ船は壊れていた/戊辰の果ての泥船は、落ちていく箱さながら/揺れに揺れてあちこち叩(たた)きつけられた」「不遇をかこつ者たちは慰めと祝福を受けた/与えられた名前はすべて名簿に記された/銘度利加、生の証し」(「銘度利加」)
 メトリカには信者の出生から死亡までが記録される。十田さんは、幼少期に信者だった隣家で筆で名前が書かれたメトリカを目にした。「あれは何だったのか」との記憶があり、謎に包まれた古里を作品の舞台に選んだ。詩集の装丁も黒一色で、神秘さを醸し出している。
 全編を通して生きている人は出てこない。「小説では説明に終始し、伝わらないものもある」とし、「生きていない人の声という、言葉にならないものをどう感じてもらうか。それには小説ではなく詩だった」と話す。
 15年ほど前に作った詩を再構成して収録するなど刊行までに時間を要した。「『銘度利加』は、語らなければという必要性に迫られて書いた」と強調。詩作の前に郷土資料を読み込み、自分の中でイメージを膨らませた。「詩人なのに歴史学者みたいだ」と笑う。
 旧南部藩に属する鹿角を「独特の成立の経緯のある土地。詩人として語り継ぎたい」と十田さん。今後も古里を詩で表現していく。
 「銘度利加」は思潮社刊、2200円(税抜き)。


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2018年04月17日火曜日


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