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<大川小・争点を語る>(中)組織的過失 震災前に対策の余地

高橋真(たかはし・まこと)岐阜県生まれ。京大大学院法学研究科博士後期課程退学。香川大法学部助教授、京大教養部助教授を経て、1998年から大阪市立大。専門は民法。著書に「安全配慮義務の研究」(成文堂)など。63歳。

 仙台高裁は昨年3月29日の控訴審第1回口頭弁論後の非公開協議で、「本件(大川小の津波被害)は教員個人の責任の限度を超える事案」と指摘した。その上で、遺族と石巻市・宮城県の双方に東日本大震災前の学校や市教委の「組織的過失」について主張立証を求めた。

◎大阪市立大大学院法学研究科 高橋真教授

 組織的過失とは何か。大阪市立大大学院法学研究科の高橋真教授(民法)は「学校や企業など人の行動を制約する組織には、管理下の人の安全環境を確保する義務が生じる。そうした組織の管理者による職務上の安全配慮義務違反とも言える」と説明する。
 「学校や市教委は児童の生命安全を守る目的を達成するために行動する一つの組織体。大川小の教員らが地震から約50分間、校庭から動かなかった事実を読み取ろうとすると、直前の出来事よりも事前対応から過失を検討する方が、自然で適切な着眼点だ」という。
 遺族側は仙台地裁の一審段階でも、事前に危機管理マニュアルを改訂して津波対応の避難場所や方法を明記すべきだったと主張。2016年10月の地裁判決は「震災前に具体的な津波被害は予見できず、マニュアルを改訂すべき義務は認められない」と退けた。
 震災前、大川小は学校周辺の地理状況を独自に調査していなかった。高橋教授は「地域の実情を確認する過程で防災を担う人材も育つ。適切なマニュアル整備のための調査をしていれば、地震後の早い段階で高台避難を決断できた可能性もある」との見方を示す。
 市・県側の「学校までの津波到達は例がなく、事前の予見は不可能。当時のマニュアルに不備はない」との主張に対しては、「科学的知見に照らした評価と、置かれた現状を認識する取り組みをしたかどうかは別問題」と疑問を呈する。
 学校現場で起きた事故の予見可能性を巡り、学校側に厳しい責務を課した判例もある。落雷の予見の可否が争われたサッカー落雷事故訴訟の最高裁判決(06年)は、落雷に関する一般的な知見が引率教員や大会関係者にあれば、雷鳴が聞こえた段階で試合を中止して生徒への落雷を回避できたと判断。予見可能性を否定した高松高裁判決を破棄、審理を差し戻した(後に原告勝訴確定)。
 最高裁判決の意義について、高橋教授は「教員らが落雷の危険について無知ならば、知見を引き上げるのが管理者の義務であることを示唆した」と強調。「客観的に存在する危険を主観的に認知できなかったとしても、言い訳にはならない」と断じる。
 大川小津波訴訟の一審判決は、広報車が避難を呼び掛けた津波襲来の約7分前までに予見できたと判断、教員の過失を認めた。ただ、高橋教授は「事故直前の過失を捉えると(学校の)マネジメント段階の問題が隠れる。約50分間も校庭にとどまり続けた不自然さは、偶然的な出来事に左右されるものではないはずだ」と、震災前の不備による「必然」を指摘する。


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2018年04月21日土曜日


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