
<まちかどエッセー・鈴木英子>漢字と私

「漢字の勉強は楽しいですね」「先生が教える方法は、とても分かりやすいです」。授業が終わり、笑顔で教室を出ていく学習者を見ると、何物にも代え難い喜びで胸がいっぱいになります。
私が新米ボランティアとして初めて担当したのは漢字クラスでした。学習者は16人、ほとんどが母語に漢字を持たない非漢字圏の人たちでした。「漢字」というと、ひたすら書いて覚えた記憶しかない私にとって、非漢字圏学習者がどんな気持ちで漢字と向き合っているのか、全く想像もつきませんでした。
初回の授業のことは今でも忘れません。私が必死になればなるほど、みんながどんどん静かになっていくのです。退屈そうにあくびをしている学習者もいて、とろんとした目で私を見ています。重い空気を感じながら、「ああ、こんな面白くない授業はしたくないよ〜」と内なる声まで聞こえてきて、苦い体験になりました。
あれから26年、現在も試行錯誤は続いていますが、私の中で大きく変化したものがあります。それは、「漢字は難しい」から「漢字は面白い」という思いになったこと。例えば、「友」という字は「ナ」+「又(また)」の組み合わせ。二つとも手の意味で、手と手を取り合う友達の意味をしっかりと表しているのです。
人を表す漢字も人偏だけではありません。漢字の中には、「立ったり」「座ったり」「跪(ひざまず)いたり」といろいろな人の形が表されています。「危」という漢字は、崖の上から人(〓)が跪いて下をのぞいている形です。崖の下にも、上の人を心配してか、しゃがみこんだ人の姿。まさに「危ない」という漢字の意味がよく表れています。
小学2年生のめいの娘に、こうした漢字の話をしたら、目を輝かせ「もっと教えて」と何度もせがむのです。その様子を見ながら、私も子どものころにこのような漢字の面白さを味わっていたら、もっと楽しく漢字を学ぶことができたのではと思うのでした。
(公益財団法人宮城県国際化協会日本語講座スーパーバイザー)
〓は危から巳を除く
2018年04月23日月曜日