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<ニュース深掘り>建設アスベスト訴訟 政治決断で早期解決を

国の賠償責任や一人親方の救済を認めた判決に喜ぶ原告ら=3月14日、東京高裁前

 建設現場のアスベスト(石綿)被害を巡り首都圏の元労働者と遺族計354人が国と建材メーカーに損害賠償を求めた訴訟の控訴審で、約22億8000万円の支払いを命じた3月の東京高裁判決を不服として、国は上告受理を申し立てた。各地の同種訴訟では「国の規制遅れが被害を広げた」との判決が相次ぐ。国は労働者の安全確保を怠った責任を認め、補償拡大への対話を始めるべきだ。

 「上告断念を求めたのに国の対応は情けない」
 原告団長の宮島和男さん(88)=いわき市出身=は悔しさをにじませる。国の申し立てを受け上告した。
 14歳で電気工として働き始め、73歳で肺がんを発症した。「心にむち打って頑張る」と全国800人超の原告の先頭に立ってきた。
 判決前、高度成長期に東北から上京して建設現場で働き、石綿被害に遭った原告の思いをリポートした。東北にも患者はいるが、訴訟は起こされなかった。石綿問題への関心が低いことや被害の潜在化も影響したとみられる。
 全国労働安全衛生センター連絡会議(東京)は、石綿被害の労災補償や石綿健康被害救済制度の利用に関する地域格差をデータで示す。石綿が原因のがん、中皮腫の死亡者数(1995〜16年)への補償・救済件数(03〜16年度)の割合は全国平均74.4%。これに対し東北は青森65.0%、岩手52.0%、宮城76.7%、秋田57.7%、山形64.2%、福島58.6%。ほとんどが平均を下回る。
 中皮腫は潜伏期が長く、労災申請に必要な健康被害と仕事の因果関係の特定が難しい。東北のデータからは申請の支援態勢が充実する首都圏や関西と比べ、補償を巡る情報提供が不足していることがうかがえる。原告団の訴えは被害の掘り起こしにもつながるはずだ。

 一連の訴訟は一、二審判決9件中8件で「危険性を予見できたのに防じんマスク着用などの規制が遅れた」と国の責任を認め、うち3件は企業責任も認定。東京高裁判決は「一人親方」と呼ばれる個人事業主も初めて救済対象とした。
 厚生労働省は「国は時々の知見に応じ適切に措置を講じた。一人親方については高裁の判断が分かれ、最高裁の判断が必要だ」と上告の理由を示す。
 大阪訴訟では3月、大阪高裁が初の和解勧告を出した。村松昭夫原告弁護団長は「国は解決に踏み出すべきだという司法のメッセージだ」と指摘する。
 原告側は健康被害のある建設作業員を対象にした補償基金制度の創設を求める。国や建材メーカーが費用を負担し、補償する仕組みを目指す。7月に国会内で集会を開き、政治決断を迫る予定だ。
 「原告の7割以上が亡くなり、私もいつまで生きられるか分からない」と原告団長の宮島さんは語る。
 国の責任を認める司法判断は定着している。いたずらに時間を費やすべきではない。早期解決の道筋を示すことが国の責務だ。(東京支社・片山佐和子)

<アスベスト(石綿)>潜伏期間が数十年に及ぶ発がん性物質。安価で断熱性などに優れ、建材を中心に約1000万トンが使われた。使用は2006年に原則禁止、12年に完全禁止となった。国は使用された建物が全国に約280万棟あり28年ごろが解体のピークと推定。中皮腫による死亡者は15年に1500人を超え、10年間で約1.5倍となった。一連の訴訟は2008年の東京地裁を皮切りに6地裁で起こされ、最高裁2件、高裁5件、地裁5件が係争中。


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2018年05月21日月曜日


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