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<東北の本棚>地方の日常 ほのぼのと

◎みさと町立図書館分館 高森美由紀 著

 著者が住む青森県をモチーフとしたであろう架空の田舎町の町立図書館分館を舞台に人間模様を描いた、地方色あふれる物語だ。主人公の遥は図書館の契約職員で33歳独身。母を3年前に亡くし、現在は実家で定年退職した父と2人で暮らす。図書館の来館者は少なく業務は暇だが、ときどき本の貸し借りのトラブルやクレーム処理、遺失物捜索など困った事態が起きる。
 父は独り身になって急に料理に目覚め、主人公の弁当を作り始める。母を亡くした喪失感を引きずる主人公だが、父の手料理が家族の思い出を見詰め直す契機となる。大地主なのにけちで孤独な近所のおばあさん、父に言い寄る無遠慮な中年女性、サボってばかりだけど変に鋭い同僚男性ら登場人物も絡み、それぞれの抱えるままならない状況が徐々に明かされる。
 大事件は起きないが、ちょっとした出来事の積み重ねや、登場人物の心の動きが繊細な感性で丁寧に描写され、日常生活のかけがえのなさがじんわりと心にしみる。高齢化、嫁しゅうとめ、結婚をせかす周囲の圧力など今日的な問題もさりげなく挟まれる。ぼくとつとして娘の気持ちにいまひとつ気付けない父がいい味を出している。察することは苦手ながら、不器用に娘を思いやる姿がほほえましい。
 登場人物、特に高齢者の会話は方言で書かれ、ほのぼのした生活感や田舎町特有の窮屈さがよく伝わる。著者は普段図書館に勤めており、体験が作品に反映された部分もありそうだ。
 著者は1980年青森県三戸町生まれ、在住。「ジャパン・ディグニティ」で第1回暮らしの小説大賞。
 産業編集センター03(5395)6133=1404円。


2018年05月27日日曜日


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