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<司法取引>東北の捜査機関、慎重姿勢 供述の信用性課題「利益誘導」も警戒

仙台市内の警察署の取調室

 容疑者や被告が共犯者らの犯罪事実を明かせば、見返りに刑事処分を軽くする「司法取引」制度が1日始まった。組織犯罪の共犯者から核心的な証言を得やすくなるとの期待の一方、取引で得られた供述の信用性への懸念もある。東北の捜査機関も制度利用に慎重な姿勢を示し、当面は様子見となりそうだ。

 制度の対象は贈収賄や詐欺などの刑法犯罪と、独占禁止法違反や破産法違反をはじめとする経済犯罪。政官財の汚職や暴力団など犯罪組織上層部の摘発が念頭にあり、検察官が容疑者・被告と合意すれば起訴の見送りや求刑の軽減ができる。

<指針を通達>
 東北で過去に起きた事件では、1993年に当時の仙台市長や宮城県知事が収賄容疑で逮捕されたゼネコン汚職事件や、2006年の福島県知事汚職事件が対象事件になり得る。これらの公判では、賄賂性を巡る共犯者供述の信用性が争点の一つだった。
 最高検は今年3月、全国の地・高検に「制度利用に値するだけの重要な証拠が得られ、供述の信用性を裏付ける十分な証拠がなければ取引合意はしない」とする運用指針を通達。制度の適用は「処分を軽減しても国民の理解が得られる場合」とし、高検の指揮で最高検と協議するとした。
 仙台高検の大図明次席検事は「従来の捜査手法を尽くさず安易に取引し、公判で信用性が争われると、制度の信頼性や定着に影響しかねない。導入されたからといって、すぐに利用を考えられるような制度ではない」と言い切る。

<指導官配置>
 制度の運用には、事件捜査の実務を担う警察官も慎重な対応を迫られる。取り調べ段階で不用意に取引に言及し、後に利益誘導とみなされると、取引の信用性が損なわれる可能性があるからだ。
 山形県警は本年度、司法取引に対応する指導官を配置。「容疑者から取引について聞かれたり持ち掛けられたりした際は『検察官か弁護人に聞いて』とだけ伝えるよう、捜査員に周知している」(刑事企画課)という。青森県警刑事企画課は「(司法取引は)あくまで検察庁がやる話。警察は今まで通り公平公正に取り調べるだけだ」と制度に距離を置く。
 捜査機関と対峙(たいじ)する弁護人には、取引協議の際の立ち会いや合意への同意が義務付けられた。弁護士の間では、虚偽供述で無実の人を冤罪(えんざい)に巻き込むことへの懸念が根強いが、取引に伴う免責による組織防衛など企業法務面での積極的な利用を想定する向きもあり、受け止めはさまざまだ。
 仙台弁護士会刑事弁護委員長の阿部潔弁護士は「弁護人は容疑者や被告の意向を尊重せざるを得ない上、制度上、供述の信用性を保証する役割ではないため、結果的に虚偽供述による取引に加担する恐れもある」と指摘する。


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2018年06月03日日曜日


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