宮城のニュース

<気仙沼・防潮堤施工ミス>22cm、溝埋まらず 知事「税金投入、県民の理解得られぬ」住民「重ねた議論、一声で変わるのか」

気仙沼市魚町の防潮堤と(左上から時計回りに)菅原気仙沼市長、菅原会長、菅原清喜市議会議長、村井知事のコラージュ

 東日本大震災に伴って宮城県が気仙沼市内湾地区の魚町に建設した防潮堤に関し、県と地元住民にあつれきが生じている。発端は今年3月、一部で22センチ高く造ったミスの判明。住民は高さを巡る長年の議論を踏まえて造り直しを求めるが、村井嘉浩知事は「金」と「時間」を理由に現状のまま設置する方針を崩さない。両者の溝は深く、着地点は見えない。
(気仙沼総局・大橋大介)

<終始強気な発言>
 「(防潮堤高は)長い時間をかけて住民と県が決めた約束事だ」。今月6日に県庁を訪れ、造り直しを求める要望書を出した「内湾地区復興まちづくり協議会」の菅原昭彦会長が不満をぶつけた。
 市と市議会も住民意向の尊重を求める要望書を提出。菅原茂市長は「住民と合意のない防潮堤は造るべきではない」と迫った。
 県と地元の対立が決定的となったのは、気仙沼市役所で5月18日にあった協議会の会合。県は(1)造り直し(2)背後地かさ上げ(3)現状のまま設置−の3案を示して住民の選択を尊重するはずだったが、出席した村井知事は協議会が決めた「造り直し」を覆し、「現状設置」を提案した。
 村井知事が「既に工事は50%以上進んでいる。(造り直せば)時間がかかる。(高さが増し)安全度が高まった防潮堤への税金支出を県民は理解しない」と発言。終始強気だったことも住民の反発を招いた。

<「いらぬ」出発点>
 魚町の防潮堤の高さは、震災直後から県と地元で協議を重ねて決めた経緯がある。県は2011年9月に海抜6.2メートルを提案したが、景観への影響を懸念する住民側が反対。12年6月に設立された協議会は、高さなどに関して100回近く話し合いを重ねてきた。
 13年夏には村井知事が2度気仙沼を訪れ、建設への理解を求めた。最終的に14年2月、海抜4.1メートルの防潮堤上部にフラップゲートを設置する県の提案を住民が受け入れた。津波襲来時に浮上するため、ゲートは普段は視界を妨げない。悩んだ末の決断だった。
 被災して背後地で再建を目指す漁業会社「臼福本店」の臼井壮太朗社長は「元々『防潮堤はいらない』というのが出発点だった。約束を守るのは当然で、知事の一声で変わるのは許せない」と憤る。

<総意受け止めて>
 造り直しに国費投入は認められない。県は設置済みの7基のフラップゲート(長さ96メートル)を取り外し、ゲートを再利用する計画だが「使えるかどうかは分からない」(県担当者)。造り直しに2億〜3億円の費用を見込むが、ゲートの購入費が加われば膨らむ可能性がある。
 村井知事は5月18日の会合後の取材で「反対もあるがサイレントマジョリティー(声なき多数派)がいるのも事実」と指摘。「県民全体の利益」を強調した。だが「県のミスを、あたかも気仙沼がわがままを言っているかのようにすり替え、他地域から共感を得ようとしている」(協議会関係者)との声もある。
 協議会の菅原会長は「長い年月をかけた合意をほごにする理由が分からない。住民の総意を受け止めてほしい」と訴えている。

<住民の意思反映当然/元福島大教授で地方自治総合研究所の今井照主任研究員の話>
 今回の宮城県の対応は問題がある。住民の意思を反映するのは当然で、協議会の努力を裏切る行為だ。「造り直しに税金がかかる」とする知事の主張は明らかに論点のすり替え。「そのまま設置」を断言した面目もあるだろうが、いったん工事を中断し、住民と丁寧な協議を続けるべきだ。

<寄り添う姿勢が大事/首都大学東京の横山勝英教授(環境水理学)の話>
 防潮堤を造る上で、背後地にある街づくりへの配慮は重要。内湾地区は住民と行政が議論を重ね、街、生活、防潮堤を一体的に捉えて設計してきた象徴的な場所だった。安全性が低下するとして高さを下げることを理解しない県民もいるかもしれないが、知事は造り直しを決めた住民に寄り添う姿勢を見せるべきだ。

[気仙沼市魚町の防潮堤]宮城県が海抜4.1メートル、長さ312メートルで建設。上部に高さ1メートルのフラップゲートを設置する。市が背後地を盛り土して陸側からの見た目の高さを1.08メートルに保つ計画。2017年2月の国土地理院の水準点改定に伴う再測量で隆起を観測したため、県は同年3月、隆起した22センチを差し引く計画に変更した。18年9月の完成を見込んだが、完成済みの区間160メートル(ゲート設置済みは96メートル)で隆起分を考慮していなかった。


2018年06月10日日曜日


先頭に戻る