岩手のニュース

<東北の道しるべ>消費者を食の当事者に 一関でフォーラム

「『自然と人間の通訳者』を育てよう」をテーマに意見を交わしたフォーラム
<きくち こうせい>79年、潟上市生まれ。豊橋技術科学大大学院修士課程修了。08年に江戸時代から続く農家の12代目を継ぐ。3万平方メートルの田畑で農薬や化学肥料を使わず水稲、大豆など約150品種を栽培。「たそがれ野育園」では農的暮らしの学び場も提供している。

 戦後日本に価値観の転換を迫った東日本大震災を踏まえ、次世代に引き継ぎたい東北像を探るフォーラム「東北の道しるべin岩手」(河北新報社主催)が16日、一関市のベリーノホテル一関であった。河北新報社が創刊120年を記念し、昨年1月に発表した6項目の「東北の道しるべ」のうち、「『自然と人間の通訳者』を育てよう」をテーマに意見を交わした。基調講演とパネル討論を通じ、大量生産、大量消費で失われた自然と人間の結び付きを回復させる方策を語り合った。

◇パネリスト
東北食べる通信(花巻市)編集長高橋博之氏
農家(名取市)三浦隆弘氏
漁師(大船渡市)千葉豪氏
◇コーディネーター
河北新報社編集局長今野俊宏

◎「通訳者」への思い

 −「東北食べる通信」の表紙にある「世なおしは、食なおし。」に込めた思いは。

 高橋 エンゲル係数が下がることは国が豊かになった証しといわれるが、物価上昇を考えると日本は食べ物の価格だけ異常に下がっている。なぜかというと、消費者に食べ物の裏側が見えなくなったからだ。
 農漁業に従事する生産者は全人口の1.5%まで減った。残り98.5%は消費者。問題は生産者が減っているだけでなく、両者の関係が「つるつる」なこと。近くに農家や漁師の知り合いがいない。普段食べている物を作っている人たちが疲弊している状況を自分ごとにできない。立派な農漁村がないと都会も共倒れする。食を通じて生産と消費を結ぼうと「世なおしは、食なおし。」と訴えている。

 −「仙台セリ鍋」はどのように生まれたのか。

 三浦 名取市の下余田は、湿田でコメが作りづらい土地だった。その地形を逆に利用して作り始めたのがセリだった。在来作物のセリの強みを深め、磨いてできたのが仙台セリ鍋だ。自分の地域でしかできないことをやっていくのがこれからの農家の鍵になる。
 有機農業運動や生協運動の先輩方に育てられた。安心・安全で突き抜けておいしいセリを作っているうちに、市場の優劣の規格に合わなくなった。根っこがおいしいと思いながらも根っこを切って茎と葉だけ出荷していた。自分の言葉を伝えられる飲食店などへの直売が増え、セリ鍋ムーブメントがじわじわ広がった。

 −大船渡市の吉浜(よしはま)と言えば吉浜(きっぴん)アワビが有名だ。

 千葉 アワビに地域の名前が付いているのは誇りに思う。ホタテやワカメを養殖し、ウニ、ナマコ、アナゴ、タコ、イカなども捕っている。理由は温暖化による環境変化に備えるためだ。今はホタテやアワビが好調だが、いつまで続くか分からない。
 もっと大きな理由は純粋に楽しいから。新しいものを捕ったり、漁師たちと競争したりするのが楽しい。最近は依頼を受けて動物プランクトン漁を始めた。

◎生産現場の課題

 −消費者と関係を構築する上で生産者の課題は。

 千葉 国産ワカメの8、9割は岩手、宮城で作られ、両県で多くが消費される。東京の人は外国産ばかり食べている。それがワカメに対する味の評価を下げていると思う。震災後、各地の産地に行った。みんな良いワカメを作っていた。「隣の浜と一緒にするな」と思っていたが、国産ワカメを都会の人に食べさせる機会を増やすため、産地が一丸となるべきだという考えに変わった。
 消費者との関係では直接販売をやめた。加工、流通の人たちを飛ばして売れば自分はもうかるが、他がもうからなくなる。「安く売れます」というのは小さい話で、地域全体の売り上げを減らしてしまう。

 −セリ鍋人気をどう受け止めているか。

 三浦 セリ鍋は農家だけのものではなく、みんなのものだと言い続けている。多種多様な人たちが関わり、人気が築かれ、セリの消費が増えた。セリ鍋の元祖とか本家とか言っている店の話には乗らない。
 セリが旬の冬から春に食べてもらう鍋。仙台名物として有名な牛タン、笹かまぼこのような通年の食べ物ではない。最近は「セリ鍋は冬の食べ物だ」と話す人が増えている。ご当地鍋になっている表れで、とてもうれしい。

 −両手を合わせて「いただきます」と言う人が少なくなった。食材を作る人、調理する人への感謝の気持ちが薄れている。

 高橋 昨年末、東京の有名大の学生たちに講演した時、「都市に集まり暮らす方が、財政も雇用も合理的で人口減少という国難を乗り越えられる。何で地方が必要なのか」と聞かれた。こういう人間は増えている。都会の人に必要な食べ物を育てるには水や空気がいる。それを作り出す自然に手を掛けている人が田舎にいるから自分たちは生きていられるのに、彼らはその構造を体感したことがないから田舎の価値が分からない。
 今、「平成の百姓一揆」と銘打って47都道府県を回っている。農家と漁師を集め、自分たちの価値を語ってくれと話している。生産と消費の分断は相当深刻だ。手遅れになる前に、東北から声を上げなければならない。

◎役割と未来像

 −個人として、東北全体としてどんなチャレンジが必要か。

 三浦 人間も野菜も根っこが大事だと思っている。自分の畑で生産した農産物がどこの台所に行き、どこの食卓の皿にのるのか。その小さな繰り返しをきちんと把握していくことが、地域経済の未来につながる。地域がじわじわ変わっていけば、自分も農家も農村も変わっていける。生産者として何ができるかを問い続けていきたい。
 消費者は安い外国産に飛び付くのではなく、地元産の良さを理解して購買行動につなげてほしい。それが地元農家を支援することにつながる。

 千葉 吉浜元気組の活動として地元の子どもたちに漁業体験をさせてきた。次に知ってほしいのは、漁師の誇り。高級レストランで、自分たちが生産したホタテを使ったランチが4万円で出されていた。それだけの評価を得たのは誇りだ。今度は子どもたちを店に連れて行き、その漁師の誇りを学ばせたいと思っている。
 若手漁師をサポートしてくれる人たちから「漁師のスターになってほしい」「高級外車に乗ってほしい」といったことを言われる。「羨望の的になれ」ということなのだろうが、ピンとこない。仲間と一斉に競争するだけでいい。それが楽しい。ホタテにしろワカメにしろ、もっといい物を作りたい。人生を懸けて立派な物を生産した人が評価される漁業にしたい。

 高橋 東北は7年前に震災を経験した。その際、目の前には圧倒的な自然があるということを理解した。「東北は世界で一番、生産と消費がつながっている」と言われる地域にしたい。つるつるとしている生産者と消費者の関係を、東北から「ごにょごにょ」とした関係に変えていく。

◎基調講演「野育(のいく)自然に学ぶ田んぼコミュニティーづくり」農的暮らしの価値再発見/ファームガーデンたそがれ(潟上市)園主 菊地晃生氏

 日本の農業就業人口の減少は深刻だ。1990年は480万人超だったが、2016年に200万人を割った。生産人口の減少と、国が進める農業の大規模化は表裏一体の関係にある。一経営体の栽培面積が拡大する方向性は曲げられないだろう。
 だが農地が大規模になると、低コスト化や効率化が求められる。つまり大量の農薬や化学肥料を使わざるを得なくなり、安全性は置き去りにされる。大規模化できない農地、維持に手間の掛かる棚田などの美しい田園風景、希少生物などを守っていく農業も必要だと思う。
 「たそがれ」は子どもの頃から親しんできた日本海に沈む夕日の情景。大量生産、大量消費を求める近代主義のアンチテーゼとして、経済成長が下り坂の時代を楽しみながら乗り越えようという思いで名付けた。
 無肥料・無農薬、不耕起栽培、冬季湛水など多様性を創出する農法に取り組んでいる。「田んぼの生きものトラスト」と銘打ったコメの受注生産システムをつくり、100〜150人に直接販売している。
 「たそがれ野育園」では、消費者に育苗、草刈り、稲刈り、脱穀、自然乾燥、袋入れといったコメ作りの全てを体験してもらっている。参加するのは主に秋田市内の親子連れが多いが、首都圏の家族もいる。
 意識しているのは、作り手と食べ手の交差点となるような場づくり。東北には豊かな自然文化があり、おいしい農産物や海産物が手に入る。大都市に暮らし、自然との接点を求める人たちから見れば、非常に魅力がある。こうした人たちとコミュニティーをつくり、共に農的暮らしの価値を再発見していくことで、農村が抱えている課題を乗り越えていけるのではないか。
 先人は自然から学び、自然を生かす知恵を持って生きてきた。しかし現代人はあれだけの事故が起きても原発を手放せずにいる。もう一度、文明の行き先を立ち止まって考える必要がある。かつてあった自然と一緒に生きるということを捉え直さないといけない。

◎聴講者に聞く

<本質考える場に最適>
 「生きることの本質とは何か」を考える場として東北は最適だと思った。(宮城県南三陸町・一般社団法人代表・70代男性)

<若い人材の育成重要>
 講演者やパネリストのような農漁業に取り組む若い人を育てることが重要だ。(一関市・地方議員・60代男性)

<農産物に適正価格を>
 安全で安心な農産物を作っている生産者を支えるため、適正な価格が必要だ。(一関市・主婦・50代女性)

<応援の意義考えたい>
 作る人と食べる人をつなぐ役割や生産者を継続して応援する意義を考えたい。(仙台市青葉区・会社員・50代女性)

<生産者との溝は深い>
 首都圏に暮らしながら東北を行き来しているが、生産者と消費者の溝は深い。(横浜市・編集者・40代女性)

<取り巻く危機学んだ>
 「食」を取り巻く危機を知ることができた。自分ができることを考えたい。(気仙沼市・団体職員・20代女性)

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2018年06月27日水曜日


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