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10年前刊行「友だち幻想」異例のヒット 故菅野仁宮教大副学長著〜学校なじめぬ娘に贈る〜

刊行10年目に改めて注目を集める「友だち幻想」=仙台市青葉区のあゆみブックス仙台一番町店
著者の菅野仁さん

◎人間関係への処方箋

 宮城教育大副学長・教授だった故菅野仁さんが2008年に刊行した「友だち幻想」(ちくまプリマー新書)が10年後の今、異例の売れ行きを記録している。根底にあるのは、学校になじめない娘に向けた社会学者である父からのメッセージ。世代や立場を超え、人間関係の悩みを軽くする処方箋として反響を呼んでいる。

 版元の筑摩書房によると6月中旬現在で27刷25万部を突破。うち20万部以上が最近1年間に発行された。新書は通常、初版のみで重版がかかることは少なく、特異なケースといえる。

 現代日本では多くの人が交友関係に価値を置く一方で、友だちづくりに苦労し、つながりを維持するための「同調圧力」に神経をすり減らす。本書は学校で唱えがちな「みんな仲良く」の理念や「自分を丸ごと受け入れてくれる友だちはどこかにいる」との考えは幻想だと指摘。思い込みを捨てて無用なつまずきを避け、他者と適切な距離を取りながら「生の味わい」を深める作法を説く。

 菅野さんは仙台市出身。執筆のきっかけは小学生の長女が人付き合いが苦手で、担任から繰り返し「なぜみんなと一緒に遊ばないの」と注意され苦しんでいたことだった。専門とするドイツの社会学者ゲオルク・ジンメルの理論を現代的に捉え直し、易しい解説と実践の書にまとめた。

 本を贈られた長女は「ありがとう」と愛読していたという。菅野さんは本書がヒットする直前の16年9月、がんのため56歳で死去。長女は父の死から5カ月後、突然の心臓の病で亡くなってしまう。21歳だった。

 2人を見送った妻の順子さん(48)は「親子で悩み、泣いた経験を基に生まれた本。本を通じてたくさんの人に思いが共有されるのはうれしい。夫が10年前にまいた種が芽を出し、地上に緑が広がっていくようだ」と受け止める。

 菅野さんが執筆した当時、宮城教育大のゼミに所属していた仙台市八木山小教諭の二瓶礼(あや)さん(35)は「仲良くなることを必ずしもゴールにせず、自分と相手の共通点と相違点を知って折り合いをつける。大人にも子どもにも通じる生活に密着した考え方。学生時代から何度も読み返し、励まされている」と語る。

◎ママ友や職場…世代幅広く 誰もが自分と重なる問題

 「友だち幻想」は2017年、新聞や雑誌で度々取り上げられ、再び注目を集め始めた。18年4月にお笑い芸人で芥川賞作家の又吉直樹さんがバラエティー番組で紹介し、ブームに拍車が掛かった。

 ちくまプリマー新書は本来、中高生向けシリーズだが、本書は幅広い世代に読まれている。筑摩書房の営業担当者は「ママ友付き合いや職場関係など、誰もが自分の問題として読める。会員制交流サイト(SNS)が発達して簡単に人とつながれる今だからこそ、悩み、求めるのだろう」とみる。

 仙台市青葉区のあゆみブックス仙台一番町店は、店内の「一等地」である出入り口近くの平台の角に50冊を積み上げて販売。隣に置いた「君たちはどう生きるか」と一緒に購入する客も多いという。小柳春之店長(41)は「地元の著者の本は手に取ってもらいやすいが、仙台でいじめ自殺が相次いだことも関心を呼ぶ要因かもしれない」と話す。


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2018年07月03日火曜日


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