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<放射光が照らす未来>次世代型施設仙台へ(上)宿願/産業構造転換 熱意実る

次世代型放射光施設の建設用地(右下)とイメージ図(左上、光科学イノベーションセンター提供)

 「放射光」という強力な光でナノ(10億分の1)の世界を解析し、あらゆる物質を原子レベルで観察できる次世代型放射光施設が東北に誕生する。文部科学省は3日、放射光施設を官民で整備運営するパートナーとして宮城県内の産学官を選んだ。東北の産業構造を変える可能性を秘める施設が仙台に選定される経緯をたどり、今後の課題を探る。(報道部・高橋鉄男)

<世界リード>
 「企業が利用しやすい地域だ」
 今年5月、東北大青葉山新キャンパス(仙台市青葉区)を訪れた文科省小委員会の審査担当者が感嘆の声を上げた。次世代型放射光施設建設用地の同キャンパスはJR仙台駅から市地下鉄で10分。アクセスの良さが際立った。
 施設は建設費の約360億円を国と産業界、地域が共同で賄う。民間資金を取り込み、主目的が学術研究ではなく産業利用となる国内初のケースでもある。
 全国に9カ所ある既存施設に比べ、次世代型は物質の機能を分析する光の明るさが100倍超。新材料開発や創薬への期待がさらに高い。それを裏付けるように構想を主導する産学連携組織、光科学イノベーションセンター(仙台市)には大手メーカーなど約50社が1口5000万円の出資要請に賛意を示す。
 センターの理事長を務める高田昌樹東北大総長特別補佐は「大企業がこぞって使い、世界をリードする研究開発拠点になる」と自負する。
 東北の産学官が次世代型施設の誘致を目指した契機は東日本大震災にある。2011年末、東北7国立大が「復興の研究拠点に」と構想を提言。14年に宮城県の村井嘉浩知事が6県の産学官組織を設け、誘致に動きだした。
 当初の計画では建設費の全額を復興予算で賄う算段だったが、文科省が巨額の地方負担を示唆。15年に村井知事は「とても負担できない」と退き、構想はしばらく棚上げになった。
 「諦めきれない」「企業で資金を集めることはできないか」。東北大や東北経済連合会は16年から、水面下で三菱重工業や日立製作所など大手30社以上のトップと面会を重ねた。
 この場で「企業は建設を待望している」との感触をつかみ、財源を国丸抱えでなく企業からも募る仕組みに転換した。経済産業省OBは「東北の熱意が文科省の背中を押した」と語る。

<下請け脱皮>
 財源スキームの転換には別の狙いもあった。企業が資金を負担して産業利用が主目的となれば、研究開発拠点の集積や新商品開発を通じた地場の中小メーカーの急成長につながる可能性が大きい。
 東北の政財界は長年、大企業の業績に左右される下請け型から自立型の産業構造への脱皮を目指し、実現できなかった。
 07年には次世代スーパーコンピューター誘致競争で仙台市が神戸市に敗れ、大卒の人材が首都圏に流出し続けた。今回は宮城県と仙台市が文科省に「若者の定着につながる」と財政支援を表明し、産学官の一体感を強くアピールした。
 16年の就任から次世代型施設誘致に取り組んできた東経連の海輪誠会長は「産学官で産業構造を転換する東北の宿願をかなえ、多様な波及効果をもたらさなければならない」と語る。正念場はこれからだ。

[次世代型放射光施設]リング型の加速器を光の速さで回る電子が、方向を曲げた時に発する光(エックス線)を使い、ナノレベルで物質を分析する。次世代型は物質の構造を解析する軟エックス線領域に強みがあり、円周は325〜425メートル、ビームラインは当初10本造る。官民共同で整備運営し、国側は量子科学技術研究開発機構(千葉市)、民間側は光科学イノベーションセンターと宮城県、仙台市、東北大、東北経済連合会が5者連名で提案した。2019年度着工、23年度の運転開始を目指す。


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2018年07月05日木曜日


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