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<放射光が照らす未来>次世代型施設仙台へ(中)土台/産学連携 西に手本あり

世界最高性能の大型放射光施設のスプリング8。稼働から20年になった=兵庫県佐用町(理化学研究所提供)

 「放射光」という強力な光でナノ(10億分の1)の世界を解析し、あらゆる物質を原子レベルで観察できる次世代型放射光施設が東北に誕生する。文部科学省は3日、放射光施設を官民で整備運営するパートナーとして宮城県内の産学官を選んだ。東北の産業構造を変える可能性を秘める施設が仙台に選定される経緯をたどり、今後の課題を探る。(報道部・高橋鉄男)

 中国山地に抱かれた兵庫県佐用町。山あいを抜けた広大な敷地に大型放射光施設「スプリング8」の1周約1.4キロのリング型加速器が姿を現した。放射光(エックス線)を取り込むビームライン57本が稼働し、それぞれ実験ブースを併設する。誕生から20年がたった今も連日、研究者約300人が泊まり込む。
 「世界で勝ち抜く産業技術が生まれている」。運営する理化学研究所放射光科学研究センターの石川哲也センター長は誇る。

<産業用2割>
 ナノ(10億分の1)レベルの物質の変化を捉えて材料開発に生かし、ビームラインの2割が産業利用となっている。その比率は海外の類似施設より高く、東北大青葉山新キャンパス(仙台市青葉区)に整備される次世代型放射光施設が目指す産業利用のモデルケースでもある。
 2008年、素材メーカー19社と東大、京大など10以上の大学の研究者が結成した「フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体」。スプリング8のビームライン1本を共同整備し、10年に運用を始めた。
 この連合体から、低燃費タイヤや自動車向け樹脂材料、世界シェアトップを誇る炭素繊維といった高機能商品が続々と生まれた。
 大手メーカーには放射光施設による分析結果を評価できる人材が少なく、新材料開発につなげるのが難しかった。連合体は装置や測定に強い研究者が企業と対になって共同研究し、産学連携で研究力の底上げを図った。
 低燃費タイヤを生んだ住友ゴム工業(神戸市)の中瀬古広三郎技監は「企業は幅広い学術知見を融合させることでイノベーションが生まれ、国際競争を勝ち抜くことができる」と産学連携の重要性を説く。

<人材育成を>
 連合体の設立には、東北の次世代型施設構想を主導した光科学イノベーションセンター(仙台市)理事長の高田昌樹東北大総長特別補佐が理化学研究所在籍時に尽力。高田氏は「経験を土台に、さらに企業にとって使い勝手の良い施設に発展させる」と語る。
 国と施設の整備や運用を担うセンターは、周辺に企業、大学、分析会社が入居する施設を整備。企業と研究者が一緒に製品開発に取り組み、分析会社に実験を任せることができるようにする。企業ニーズに沿うよう、放射光の利用申請もスプリング8の半年ごとから1カ月ごとに短縮を図る。
 産学連携の充実は、企業の研究開発拠点の集積に直結する。材料や生命科学分野の研究で実績のある東北大の矢島敬雅理事は「われわれ東北大が放射光利用に向けてしっかり準備するのはもちろん、東北をはじめ全国の他大学にとっても使いやすい環境を整えることが使命だ」と話す。
 兵庫県の幹部は「各大学は今から人材育成に力を注ぐべきだ。稼働後すぐ使いこなし、産業界にきちんと成果を示すことが東北の次世代型施設の立ち位置を決める」と指摘する。

[スプリング8]1997年に兵庫県佐用町で運用を開始した理化学研究所の大型放射光施設。円周1.4キロのリング型の加速器に、世界最高クラスの放射光を取り込む57本のビームラインが稼働する。建設費約1100億円。物質の構造の解析に強みがあり、国内外の研究者ら年間約1万6000人が利用する。探査機「はやぶさ」が持ち帰った小惑星の微粒子の解析にも活用されている。


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2018年07月06日金曜日


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