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<東北の道しるべ>循環型経済 幸福の鍵/足元のお金や資源見直そう

カードをポイント端末にかざすウオーキング教室の参加者=6月19日、盛岡市上田の市高松地区保健センター
バイオマスエネルギーの核となる木質チップを生産する「もがみ木質エネルギー」の工場=山形県最上町
[ふじやま・こう]1959年島根県生まれ。一橋大卒、広島大大学院博士課程修了。島根県中山間地域研究センター研究統括監、島根県立大連携大学院教授を経て2017年4月、持続可能な地域社会総合研究所を設立し、所長に就任。編著に「図解でわかる田園回帰1%戦略 『循環型経済』をつくる」など。

 足元の所得や遊休資源を見直し、「地域経済循環」を高める取り組みが東北で始まっている。盛岡市は中央資本の小売店に漏れている消費を地元商店街に引き戻そうと、電子地域通貨を導入した。山形県最上町は域内の化石燃料購入費の削減に向け、豊富な森林資源の活用を図る。際限のない規模の競い合いから循環型へ。地域のつながりを見つめる経済の「東北スタンダード」が見えてきた。

◎電子通貨で商店街利用/MORIO−Jカード 盛岡

 大型ショッピングモールの郊外出店や、中心商店街に全国チェーン小売店の進出が続く30万都市の盛岡。地域から中央資本へ漏れ出るお金を減らそうと2015年、電子地域通貨を集積回路(IC)カード化した「MORIO(モリオ)−Jカード」=?=を導入した。
 カードを発行する「盛岡バリューシティー」は盛岡商工会議所、市内6商店街、盛岡市などが出資して設立した。ICカードは電子地域通貨だけでなく、電子マネーなど複数の機能を集約して利便性を図れる。加盟店は紙の地域通貨のような請求手続きがいらないメリットもある。
 地域通貨の1ポイントは1円として加盟店で利用できる。付与ポイントは加盟店によって異なり100円当たり1ポイント、または200円当たり1ポイント。カード発行枚数は10万枚を越え、1日当たり約700万円の売り上げ効果があるという。
 盛岡市では17年度、健康増進プログラムやイベント、ボランティアの参加者にポイントを付与する事業を始めた。カード所有者を増やし、現在約190店と伸び悩む加盟店の増加につなげたい考えだ。18年度は10事業でポイント付与を計画する。
 6月19日にあった市主催のウオーキング教室には27人が参加し、6人が新規会員となった。付与されるのは50ポイントと少ないが「健康になり小遣いまでもらえた」と参加者には好評だった。
 盛岡バリューシティーでは、地元バス会社2社とIC乗車券との相乗りも検討。20年の東京五輪までの実現を目指す。
 人口減少や高齢化に直面する盛岡市で、地域内消費の劇的な成長は望めない。広田淳専務(66)は「利用率の低い若い世代を取り込み、カードを持続的に地域経済を支える基盤にしたい」と強調する。電子地域通貨を活用した域内循環の拡大を目指す。

[MORIO−Jカード]イオンの電子マネー「WAON(ワオン)」のシステムを利用。イオンに入店する地元の加盟事業者を除き、イオンでの買い物で電子地域通貨のポイント付与はなく、使用もできない。加盟店はポイント端末機1台当たり月2000円と1ポイントにつき2円の発行手数料を負担する。

◎木質チップ 輪の中心に/バイオマス産業都市構想 山形・最上

 面積全体の8割超を森林が占める山形県最上町。人口は1万人を割り、高齢化率は35%に迫る。
 衰退する現状に立ち向かう手だてとして、町はバイオマス産業都市構想=?=に2015年から取り組んでいる。地元の豊富な資源を活用した産業創出によって人、物、財が域内で活発に循環する社会を目指す。
 町の木質バイオマス事業自体は、07年度にスタート。最上病院や高齢者福祉センター、介護施設が集積する「ウェルネスプラザ」に冷暖房エネルギーを供給している。
 間伐した地元産スギ材から木質チップを生産し、プラザ内のボイラーの燃料として活用する。年間のチップ利用量は約1700トン(16年度)。これを重油の値段に換算すると、約4000万円の域外流出を抑えた計算になるという。
 町エネルギー産業推進室の吉田徹係長は「まだ小規模だが、経済循環の形が整ってきた。今後は家庭のボイラーでもチップを使用し、町全体で循環する流れにしたい」と話す。
 バイオマス構想の中核を担うのが、09年に創業した地元の木質チップ生産会社「もがみ木質エネルギー」。構想開始に合わせ、16年12月に新工場を整備した。
 工場稼働後の17年度、チップ生産量は倍増の約6000トンに。うち最上町での活用は約2000トンで、残りは域外に供給した。
 18年度の売上高は、工場稼働前の倍増となる約1億円を見込む。雇用も当初の3人から7人に増えた。着実に、域外に漏れていたお金と人を取り戻す。
 下山邦彦社長(46)は「バイオマスは広大な自然、森林を持つ田舎だからこそ可能な事業」と強調する。
 「地元の資源を活用して地元に還元したい。発電が可能になれば新たな雇用も生まれる」。小型のバイオマス発電事業の夢を描きつつ、町の将来を見据える。

[最上町バイオマス産業都市構想]町内の森林や廃棄物などを活用し、バイオマスエネルギーに転換。町全体に循環させ、環境に配慮した安全、安心で若者も定住できる都市を目指す。構想期間は25年までの10年間。バイオマスエネルギーの利用率を現在の約18%から約50%まで高める。

◎所得の域外漏れ抑止を/持続可能な地域社会総合研究所 藤山浩所長に聞く

 「循環型経済」の必要性と仕組みを、一般社団法人「持続可能な地域社会総合研究所」(島根県)の藤山浩所長に聞いた。

 地域経済が衰退してきた真の原因は、地域内の所得が「穴の開いたバケツで水をくむ」ように地域外へ漏れていることにある。地域のお金の使い方を見直し、域内でお金がぐるぐる回る仕組みをつくって、バケツの穴をふさぐことが重要だ。
 だが多くの政治家や行政は、いまだに地域経済の活性化策として派手な工場誘致や観光振興を掲げ、初期投資額の規模を競っている。東京資本のホテルチェーンを誘致しても仕入れは域外で一括して行われ、結局利益は東京に行く。地味だが、農家民宿の方が地域の実質的な実入りになる。
 英国では2000年前後から「地域内乗数効果」という地域経済理論が実践されている。日本と同じように巨額の公共投資で地域振興策を図っていたが、あまり実効性はなかった。その反省に基づき、投資されたお金がどれだけ住民に届いているのかを見ている。
 域内で100万円の投資があった場合、域内循環率が80%だと第一段階で80万円が域内に残り、20万円が域外に流出する。第二段階では域内に残った80万円の中から80%分の64万円が域内で調達される。
 これを繰り返し、加算していくと最終的に約500万円の域内需要が生まれることになる。循環率が60%だと最終的な域内需要は約250万円にすぎず、その差は歴然としている。長い時間をかけて域内循環率を高めていく覚悟が地域に求められている。
 人口2600の福井県池田町で16年度に実施した環境省の家計調査では、食料と燃料に7億4000万円が使われていたが、うち域内で購入されたのは3億円分しかなかった。使ったお金がどれだけ域外に流れているかを知り、域内の消費と生産を増やす戦略を立てることが望ましい。
 中山間地域では、コメよりも消費が多いことに目を付けてパン屋を起業する人やコミュニティーが増えている。池田町など全国4カ所で試算すると、原料生産、製造が域外の場合、1個100円のパンの地元所得は11円。原料生産、製造も域内で行い1個150円で売ると地元所得は69円にもなる。
 安いというだけで域外の物ばかりを買うと、地域経済はいつの間にか身ぐるみはがれるような結果を招いてしまう。一握りの人間が大金持ちになる「規模の経済」から抜け出し、地域住民が持っている力をつなぎ直して幸せになるということが循環型経済の本質だ。

◎東北の道しるべ

・「東北スタンダード」を掲げよう
・「2枚目の名刺」を持とう
・「自然と人間の通訳者」を育てよう
・「共創産業」を興そう
・「エネルギー自治」を確立しよう
・「INAKA(いなか)を世界へ」広めよう


 戦後日本に価値観の転換を迫った東日本大震災を踏まえ、河北新報社は創刊120年を迎えた2017年1月17日、次世代に引き継ぎたい東北像として「東北の道しるべ」を発表しました。災後の地域社会をどう描くのか。課題を掘り下げ、道しるべの具体策を考える特集を随時掲載します。
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2018年07月20日金曜日


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