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<東北の本棚>起草者探すドラマ展開

五日市憲法 新井勝紘 著

 明治時代に作られた五日市憲法は、現憲法に近い民主的な憲法とされる。開かずの土蔵から見つかって今年で50年。最初に手にしたのが著者だが、起草者の千葉卓三郎とは何者なのか、謎の人物探しがもう一つの読ませどころだ。それはそのまま、著者自身の学究の旅であった。
 1968年8月、東京都あきる野市五日市にある山林地主の土蔵が、東京経済大の色川大吉教授(当時)グループの手で開けられた。バタバタッとコウモリが飛び立つ。薄暗い2階の一隅に風呂敷包み、中を開けた著者は大学4年生だった。「今まで誰も見たこともない史料だ」と師の言葉、その瞬間に人生が決まった。
 「日本国民ハ各自ノ権利自由ヲ達ス可(べ)シ」−自由の保障と人権の尊重、法の前の平等、教育の自由、信教の自由、地方自治の保障などを書き込んだ204条。卒業論文のテーマとして、条文を一つ一つ読み解いていく。
 一方で起草者探しの旅に出る。史料に「陸陽仙台千葉卓三郎」「宮城県下小四区」とあった。仙台市役所へ向かう。職員が「小四区は栗原郡志波姫町(現栗原市)ではないか」と教えてくれた。町役場を訪ね生地を志波姫と特定。が、千葉家は石巻、仙台、神戸市へと転籍していた。遺族に巡り合う。謎の起草者にたどり着く経過は、まるでテレビドラマの世界だ。
 千葉卓三郎は仙台藩の下級武士出身。戊辰戦争で敗れ、放浪求道の果てに五日市で教師をしながら地域の人々と民主的な憲法案を作った。
 「五日市憲法との出会いがなかったら」と振り返る著者。しかし、それは偶然ではなく必然であっただろう。「研究に対して常に謙虚に」が師の教え。それを守り貫いたことが「出会い」を呼び込み、起草者探しでも協力者を得られた。歴史上の発見が世に出る出ないは、研究者の姿勢に左右されることをよく示している。著者は1944年東京都生まれ。元専修大教授。
 岩波書店03(5210)4111=886円。


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2018年07月22日日曜日


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