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<検証・在宅被災者>(上)制度のはざま/仮設入れず生活困窮

アルミテープを剥がし、洗面所の柱の状態を確かめる佐藤悦一郎さん。下部が腐り、細くなっている

 東日本大震災で甚大な津波被害を受けた宮城県石巻市で、今なお進行する被災に苦しむ人々がいる。十分な支援を得られないまま、損壊した自宅に住み続ける在宅被災者だ。震災から7年5カ月。家屋の劣化、生活困窮、健康悪化など負の連鎖が止まらない被災地の現実を見る。(石巻総局・氏家清志)

 津波の影響がうかがえない石巻市貞山の住宅街。外見は無傷の木造2階住宅で、震災の爪痕を見た。
 無職佐藤悦一郎さん(74)宅の1階の台所に入った。歩くと床が沈む。床下にヘドロが堆積し、湿気と異臭を放つ。洗面所の柱にはアルミテープ。床下から湧く虫の侵入を防ぐ。柱の下部は虫が巣くい、年々やせ細っていく。

<「置き去りに」>
 津波は1階の天井近くまで達し、水は3日間引かなかった。佐藤さんは倒れたたんすで両膝を負傷し、辛うじて2階に避難した。
 震災当日は冷蔵庫から運び出した冷凍食品などでしのぎ、翌日は自衛隊がボートで食料を運んでくれた。
 自宅は大規模半壊と判定された。3カ月後、仮設住宅に入居できるよう市に掛け合ったが「居住する家がある」とにべもなかった。
 「置き去りにされた」と佐藤さんは感じた。「家が残っても1階には何もなく、地獄だった。冷蔵庫や炊飯器が支給される仮設住宅がうらやましかった」
 当時の貯蓄は50万円程度。国の制度などを利用し約300万円をかけて自宅を修繕したが、途中で自己資金が尽きた。
 市は2013年、補修費を最大100万円助成する住宅再建事業を始めた。年金暮らしの佐藤さんは震災後に患った大病の影響もあって固定資産税が払えず、適用から外れた。
 今年3月で医療費窓口負担の免除が打ち切られ、生活保護を受給する決断をした。現状で、自宅を追加補修する余裕はない。

<家屋 日々劣化>
 石巻市を拠点に在宅被災者を支援する一般社団法人「チーム王冠」によると、自宅が損壊した在宅被災者の平均修理額は約500万円。市の支援額は国と合わせ、最大約250万円にとどまる。
 在宅被災者は約8割が65歳以上で、年金受給者など低所得者が大半を占めるとみられる。多くが日々劣化する住まいでの暮らしを余儀なくされている。
 石巻市針岡の無職佐藤与次郎さん(86)は床上浸水した木造平屋に1人で暮らす。地震で屋根の瓦がずれ、雨漏りで天井に穴が開いた。床下も腐り、床の穴は今も広がっている。
 自己資金が乏しい佐藤さんは市の住宅再建事業に望みをつなぐが、要件の一つだった書類をそろえられず、申請できないでいる。
 チーム王冠の伊藤健哉代表理事は「震災で生活状況が一変し被災弱者となった人がいる。個々の状況に合わせ、支援制度は柔軟に運用すべきだ」と指摘する。
 大災害のたび、制度のはざまに陥る人々が生まれる。そこに生活苦が忍び込み、希望を奪う。

[在宅被災者] 震災直後、避難所が満杯で入れなかったり、家族に要介護者や障害者がいるなどの理由で自宅での避難を選択した被災者。家屋補修の支援制度は(1)国の災害救助法に基づき最大約54万円を支給する応急修理制度(2)同法による大規模半壊以上の被災者を対象とする加算支援金(複数世帯は100万円、単数世帯は75万円)(3)各自治体独自の支援事業−がある。(1)か(2)を申請して修繕すると、原則として仮設住宅や災害公営住宅に入居できない。


2018年08月05日日曜日


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