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<東北の本棚>現代の起点を読み解く

◎大正=歴史の踊り場とは何か 鷲田清一 編著

 大正時代(1912〜26年)は日本、世界の大きな転換期だった。第1次世界大戦と恐慌が世界各国に打撃を与え、日本ではさらに関東大震災が発生する。農村から都市への人口の大移動が起き、国民の生活様式は一変した。
 大正デモクラシーの到達点として普通選挙法が成立するが、それは治安維持法と抱き合わせで認められたものだった。国民の多くは、意識しないままに戦禍に巻き込まれていく。
 大正時代は昇る人(高揚)と降りる人(沈降)が交差する歴史の踊り場ではなかったか−。編著者らは「サラリーマン」「職業婦人」「専業主婦」「民生」「文化」など、この時代に登場、または一般化した言葉に着目。その発生や流行などに焦点を当て、「現代の社会や暮らしの起点となった」時代を読み解いていく。
 サラリーマンは1910年代に給与生活者を指して使われるようになった和製英語だ。人に使われるだけの凡庸さの代名詞だった。一方、ストライキが急増したことで、終身雇用や年功序列を柱とする労務管理が始まる。サラリーマンの登場で家族は職場と分離した住居に住むことになり、職業婦人や専業主婦が出現。新しい生活様式や生活文化が生まれた。東京では私鉄沿線の郊外に住宅地が広がり、現在につながる通勤などのライフスタイルが形成されていく。
 民の生死、生活、生計などに関わる民生の問題も大正になって取り上げられるようになり、国民の生存権、生活権が主張された。文化面では文語詩から口語詩への移行期に当たる。「何を詩と呼ぶか」の問いにたどり着くための、近代で最初の踊り場だったとの指摘が興味深い。
 編著者は哲学者で京都市立芸術大学長、せんだいメディアテーク館長。他に詩人の佐々木幹郎、京都大名誉教授の山室信一、東京大大学院教授の渡辺裕の3氏が中心となって執筆した。歌人の佐々木幸綱氏らも文章を寄せている。
 講談社03(5395)4415=1836円。


2018年08月12日日曜日


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