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<浜再生の道 検証・水産業復興特区>(上)誤算/雇用の大義経営を圧迫

津波の爪痕が随所に残る浜に立つ桃浦LLCの社屋

 東日本大震災からの漁業再生の呼び水として宮城県が2013年に導入した水産業復興特区は、9月予定の漁業権一斉更新を前に次期の適用が見送られた。震災直後、県漁協の激しい反発を押し切って動きだした漁業の新しい形は浜の復興にどんな役割を果たしたのか。7年半の歩みとこれからを探る。(石巻総局・関根梢)



 津波の爪痕を残す荒涼とした浜で、ひときわ目立つ白い社屋がある。
 牡鹿半島北西部の石巻市桃浦にある「桃浦かき生産者合同会社(LLC)」。地元漁業者15人と仙台水産(仙台市)が12年、1年後の特区活用を前提に設立した。特区が適用された初の、そして唯一の企業だ。
 特区が描いた絵は希望に満ち、華々しかった。

<若者呼び込む>
 目標の設定期間は16年までの5年間。「年間生産額は震災前比50%増」「地元漁民15人の雇用とさらに約40人の雇用創出」。そして「持続的、安定的な産業形成によるコミュニティー再生」(県復興推進計画)。
 LLC設立後に加わった社員は11人。漁師の世界に初めて入った人もいる。県内の13〜16年の新規就業者は132人。一つの浜だけで11人を確保したことは、漁業新時代の息吹を感じさせた。
 「漁師に憧れがあった」「給料をもらいながら漁業ができる」
 県が3月に発表した特区の検証には、LLCに入社した新規就業者の声が並ぶ。企業人として漁業に携わるスタイルは就業のハードルを下げ、若者らから一定の支持を得た。
 光が差し込む一方、数字は現実の厳しさを物語る。

<生産伸び悩む>
 16年度のカキ生産量は95トンで、計画比の68%にとどまった。生産額は1億9268万円で、同64%。雇用は16年度、社員27人とパート14人の計41人。当初計画比15人のマイナスだ。
 生産額は、漁協所属の経営体が14年度に震災前水準まで回復したのに対し、桃浦地区は震災前に達しておらず、描かれた目標に比べると物足りなさが残る。
 16年度の純損失は3800万円に達した。17年度も370万円の赤字。要因は生産額の伸び悩みと、水揚げの多少にかかわらず固定された人件費だった。生業の維持という特区の大義名分が経営を圧迫する。
 県水産業振興課の担当者は「特区導入の目的を考慮すると、不漁だからといって人件費を抑制することはできない」と説明する。
 何より、津波で壊滅した地域のコミュニティー再生は完全な空振りだった。
 震災前、桃浦には74世帯185人が暮らした。今は18世帯30人。漁港周辺は災害危険区域に指定されている。新たな住民受け入れのハードルは高い。
 今年3月まで桃浦地区の行政区長を務めた甲谷強さん(89)は言う。
 「地元に住むLLC社員は10人足らず。特区を取り入れても何の変化もない。住宅関連の制度と連動しておらず、特区だけでは地域の再生は見通せない」

[水産業復興特区]漁業法を一部緩和し、地元漁業者だけでは復旧が困難な地域に企業の参入を促す制度。漁業法は漁業権の優先順位を規定し、競合があれば第1位の地元漁協に免許が付与される。特区では優先順位が撤廃され、漁業者主体の法人に県が直接免許を与える。政府方針として6月にまとめられた水産改革にも優先順位廃止が盛り込まれている。


2018年08月23日木曜日


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