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<問う論じる 改憲の行方>(1)一ついじれば堤防決壊/漫画家 安彦良和さん

[やすひこ・よしかず]1947年北海道生まれ。学生運動で弘前大を除籍に。アニメーターとして機動戦士ガンダムの作画監督を務めた後、漫画家に転身。「機動戦士ガンダム THE ORIGIN」はアニメ化され、総監督に就任。第6作「誕生 赤い彗星(すいせい)」が今春、全国上映された。近著に「原点」。

 9月の自民党総裁選は、9条を中心に憲法改正の在り方が争点に浮上している。創作の現場から憲法の今について発言する人々に論議の問題点を聞いた。

 ―日本国憲法をどう評価する。

<変える理由ない>
 「割とシンプルで柔軟性があり、理想主義的。根底には占領軍の戦略的な判断があったと思う。内容自体はきれい事だし、米国の押し付けだが、いいものはいい。押し付けられたから変えなきゃ、というのは前提が間違っている」
 「憲法論議は9条論議に尽きる。9条は戦争放棄で、自衛隊は憲法違反だなと子どもでも分かる。改憲か護憲かを問われたら、そりゃ護憲ですよ。新左翼は素直な護憲派じゃない。ちょっと屈折している」
 ―安倍晋三首相は改憲に執念を見せている。
 「改憲の理由は全くない。変えるべき理由がない」
 ―自民党は9条への自衛隊明記をはじめ、改憲4項目を示した。
 「参院選の合区解消や教育無償化は憲法を変えるまでもなくできるはず。緊急事態条項の創設も必要ない。現状で対応できる。あの手この手を繰り出し、憲法を変える実績を作ろうとするのは姑息(こそく)な陰謀だ。一つでもいじれば、堤防は決壊する」
 ―9月の党総裁選に石破茂元幹事長も立候補する。
 「石破さんはもっと素直な改憲派。正面切って改憲するとなると怖い。ただ、安倍さん的な姑息さの方が気持ちが悪い」

 ―漫画やアニメの創作と表現の自由をどう考える。

<危うさ 意識必要>
 「われわれの創作の最初の頃、アニメは子どもに見せるのだから、政治的なにおいがしたり、性的なものが顔を出したりすることに過敏だった。それがどんどん自由度が増し、逸脱するようになった。やばいと思うのが、表現の自由を盾にお行儀悪くしている人たち。性や暴力、差別を悪い意味で掘り起こし、表現の不自由を呼び込んでいる」
 ―アニメ「機動戦士ガンダム」(1979年)との関わりではどうか。
 「例えば『ジーク(ドイツ語で勝利)・ジオン!』。ファッショナブルな意味でも極めてナチス的。すれすれの表現をどこまで計算したかと言えば、かなりうかつな内情ですけどね」
 「僕はファーストシリーズで抜けたけど、漫画『THE ORIGIN』(2001〜11年)は、やばくなった部分の火消しで回っているようなところがある。タイトロープ的な危うい所を渡っているんだという意識は必要だ」

 ―憲法の理想と現実に乖離(かいり)はないか。

<引っかかる前文>
 「引っ掛かるのは『国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ』という前文の一節。今も昔も名誉ある地位を占めていない気がする。平和憲法を愚直に実践する道があったのに早々と断念、放棄してしまった。米国という寄らば大樹の陰で、朝鮮戦争やベトナム戦争に散々、間接的に協力した。それに対して反戦運動をやったわけです」
 ―今から名誉ある地位は築けるか。
 「極論を言えば、平和憲法を持ち、国権の発動たる戦争はしないので、自衛隊をそっくりそのまま国連に提供しますってことは現状でもあり得る。自衛隊の人たちはとんでもない話だろうが、実現すれば本当にノーベル平和賞ものだ」
 ―ガンダムと憲法に通じることはあるか。
 「憲法イコール9条のような感じが僕の中にある。憲法イコール戦争、ガンダムは戦争アニメ。その意味では、間接的に憲法的なものとちょっと絡んでいる。アニメで戦争を描くことは基本的にタブーに近かった。それをロボットアニメというからめ手で、おきて破りをやったと」
 「当時も今も、ガンダムは戦争の前というか平和な状態、日常を感覚的に大事にしている。そこが肝だと思う。エスカレートすると日常的な感覚を忘れ、ゲーム化してくる。多くの続編がそうじゃないかと思う」
 「例えば、原爆が落ちる1秒前、2秒前までの日常が、いかにかけがえのないものだったか。(漫画の)『この世界の片隅に』はとてもいいと思う。われわれよりもっと若い、(作者の)こうの史代さんが感覚で呼び戻してくれる。あれこそ本当に健全な想像力。健全な想像力があれば、風化や劣化は防げる」
 ―ファーストガンダムやORIGINの根底にあるテーマは。
 「『人はなぜ戦うのか』というような問題を立てたことがあまりない。後から問い掛けられて、導いた答えが『分かり合えないから』。無理でもいいから、分かり合おうじゃないかと。きれい事なんだけど、それが大事じゃないかな。逆に開き直ると、止めどなく戦い、憎しみが生まれる。憎しみが先行し、分かり合うことを完全に断念してしまうと、シャアになってしまう。ORIGINではシャアに『母親の復讐』を後付けした。これが唯一の付加価値。僕は今でも正解だったと思っている」

 ―ファーストの放送開始から来年で40年。人気は根強い。

<勧善懲悪を突き抜けたファーストガンダム>
 「勧善懲悪やヒーローという、それまで抜け出せなかった約束事を、どこまで意図的だったか分からないにしても、突き抜けたからだろう。僕の中には最初のガンダムしかないので、それを大事にしたい」
 ―アムロとシャア、どちらに思い入れがある。
 「やっぱりアムロですけどね。アムロはヒーローではなく、等身大の身近なキャラクター。かわいいやつで、よくいじけて、性格も暗いとかね。シャアにはリアリティーが要らない。何だか分からないやつだなっていう。ただ、あまりにも受けちゃったんで、それでは済まなくなった」
 ―「ニュータイプ」という概念が一世を風靡(ふうび)した。
 「ニュータイプっていう段階で、等身大という概念からはみ出す。人間のサイズを超えると、もううそごと。ある意味宗教になってしまう。元々そういう話はなくて、(原作の)富野由悠季さん自身が途中で思いついた。幕引きは何らかの抽象論を持ってこないと、うまく終わらない。だから、うまいこと考えたなと最初は思った。ただ、それがメインテーマのようになると、それはちょっと違うと。誰がニュータイプで誰が違うとか、定義は何だという話が出てきて、ちょっとしゃれにならないなと」
 「ファーストのラストが火消しになっている。若い子たちが、われもわれも『ああ、見える』ってね。ああそうか、みんなニュータイプだったのかっていう感じの終わり方。ファーストに関しては、何だかんだ言って、うまくできていると思う」

 ―ORIGINのアニメ版は第6作「誕生 赤い彗星(すいせい)」で完結した。

<ORIGIN続編は・・・>
 「終わった時は、やっぱりやれやれですね。僕はアニメにあんまりいい思い出がなくて、大体終わった時には惨めな気持ちになるが、今回はならなかった。だから自分としては上々だったと思っている」
 ―続編を望む声が多い。
 「スタッフも『なんでやらないの?』と割と本心から言っていそうだった。『もういいかげん勘弁してください』って言われなかったのがすごく救いだった」
 「昔作ったやつがあまりにもお粗末で、『見てちょうだい』と言えないんですよね。『恥ずかしくないからどうぞ』って形にしなきゃいけない。それで漫画を描いたが、やっぱり漫画は漫画。元々が映像なので、映像には勝てないなという感じもする」
 「ちょうど100年たったシベリア出兵をテーマに、漫画『乾と巽』の連載を月刊アフタヌーンで来月始める。『ORIGINの続編をやれ』となれば、(どちらも)やらざるを得ないでしょうね」
(聞き手は東京支社・瀬川元章)


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2018年08月25日土曜日


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