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<地上イージス配備計画>システムの有効性や懸念のポイントを専門家2氏に聞く

[まえだ・てつお]福岡県出身。1961年長崎放送入社。退社後、フリージャーナリストとして活動する傍ら、東京国際大国際関係学部教授、沖縄大客員教授などを歴任。専門は軍縮・安全保障論。79歳。
[やまぐち・のぼる]三重県出身。防衛大卒、陸上自衛隊幹部学校指揮幕僚課程修了。2006年に陸自研究本部長(陸将)。08年退官。現在は笹川平和財団参与、国際大国際関係学研究科教授。66歳。

 政府は弾道ミサイル防衛強化策として、陸上自衛隊の新屋(秋田市)、むつみ(山口県萩市、阿武町)両演習場に、地上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入を目指す。2基の取得経費は約2350億円と高額で、土地造成や施設建設などを含めると総額はさらに膨らむ見通しだ。2人の専門家にシステムの有効性や懸念される点などを聞いた。(聞き手は秋田総局・渡辺晋輔)

◎百発百中あり得ず不要 ジャーナリスト・前田哲男氏

 −配備計画をどう考えるか。
 「中期防衛力整備計画(中期防)や『防衛計画の大綱』にも記載されていないのに突如浮上した。なぜ必要なのか国会で議論がなされないまま地元説明が進められ、既成事実化している。中期防などにないものを前倒しして採用するのは乱暴だ」

 −北朝鮮が数百発の弾道ミサイルを保有していることが配備理由の一つだ。
 「米朝が対話路線に転換したのは明らかなのに、初期の導入目的を取り下げようとせず説得力がない。1990年代にも北朝鮮の脅威を政治的に最大限利用して情報収集衛星を導入した。今回も脅威を千載一遇のチャンスと捉えているのではないか」
 「一方で配備までに6年かかるとされる。現在、脅威があると言うのなら、米朝の対話に加わり非核化の流れを推し進めるなど別の方策があるのではないか」

 −有効性はどうか。試験での命中率は迎撃ミサイル「SM3」全体で約77%だが、このうちイージス・アショアに搭載予定とされる最新の改良型「SM3ブロック2A」は33%だった。
 「費用面でも効果からも疑問で不要だ。1発外しても被害は大きく、百発百中でなければ意味はない。しかし、超高速で飛来するミサイルを百発百中で落とすのは普通の感覚ではあり得ない。当てるには一つの目標に複数のミサイルを発射するしかない」

 −イージス・アショアは迎撃目的だとしている。
 「攻撃兵器を廃絶した後、精密誘導兵器による専守防衛の構えをつくるのなら、ある程度説得力がある。しかし、最新鋭ステルス戦闘機F35や長距離巡航ミサイルの導入も同時に進めている。これではいくら迎撃用だといっても、盾で打たれ強くしながらやりの矛先をとがらせているように見える。専守防衛の枠組みでの議論ではない」

 −配備候補地の新屋演習場は住宅地に近い。
 「昨年12月に訪れて、住家の近いところにあることに驚いた。イージス・アショアのレーダーは強力な電磁波を発し、住民に被害を及ぼす可能性がある。選びに選んでなぜ住宅地のそばなのか」

 −配備されれば攻撃目標になる恐れは。
 「湾岸戦争以降、米国が実践する現代戦では視覚や聴覚機能を担うレーダー基地をまず破壊した。有事があるとすれば、秋田や山口の有事から始まる。基地が、相手の攻撃を引きつける磁石の役割にならざるを得ない」

◎攻撃兵器の役割薄める 元陸上自衛隊研究本部長・山口昇氏

 −イージス・アショアを配備する意義とは。
 「弾道ミサイル防衛では日本海に展開するイージス艦が1段目で、陸地に配備する地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が2段目だ。落下段階のミサイルを迎撃するPAC3で守られる範囲は半径数十キロと点でしかなく、大気圏外で迎撃するイージス・アショアが加わることで日本全体に防護の傘をかぶせられる」

 −ミサイル防衛は必要か。
 「大陸間弾道ミサイル(ICBM)など弾道ミサイルの技術は1960年代にかけて発達した。防御の技術は追い付いていなかったが、現在は撃ち落とすことが可能となった」
 「導入費が高額でまじめに配備に取り組むのは日米ぐらいだ。しかし、核やICBMなどの攻撃兵器が防御兵器によって役立たなくなれば持つ意味がなくなる。攻撃兵器の役割を薄められるとの意味で有効だ。相手国からミサイルでどう喝された時に対抗手段があれば、政府の意思決定面での自由度が確保できる」

 −イージス・アショアの有効性はどうか。
 「イエスかノーかで言えば有効だが、どんな迎撃システムも100パーセントではない。防御が1段目だけでは撃ち漏らす可能性がある。弾道ミサイルが上昇するところから降下するところまで複数回迎撃のチャンスがあれば、撃ち漏らす確率を低くできる」

 −米朝間で対話が始まっており、導入することに異論がある。
 「対話が始まったのは緊張が行き過ぎ、お互いに振り上げた拳を少しでも下げないと極めて危険だと考えたから。その状態は今も変わらず、緊張が再発してもおかしくはない。北朝鮮の非核化は今後10年で達成できるかどうかではないか」

 −配備候補地には攻撃されるとの危機感がある。
 「ターゲットになることは覚悟しなければならないが、イージス・アショアが破壊されれば日本全体が危機に陥る。施設を守ることは日本を守るのと同じであり、政府・防衛省は万全を期すだろう」

 −昨年11月に秋田、山口を候補地として検討するとの報道があったが、候補地には今年5月の正式発表まで動きがなかった。
 「『何も決まっていない』という建前はそうだが、根回しをすべきだった。首長や国会議員が報道で知るというのは最悪だ。必要性に関して、丁寧に説明していくしかない」


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2018年09月08日土曜日


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