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<震災7年半>漁船「沖出し」ルール策定難航 手順煩雑、漁協に負担「犠牲出たら責任負えぬ」敬遠も

「沖出し」ルール作りの一環で試験航行する吉浜漁協の漁船=8月下旬、大船渡市

 津波の襲来に備えて漁船を沖合へ避難させる「沖出し」のルール作りが難航している。東日本大震災で多くの漁船が流失した青森、岩手、宮城、福島の4県にある88漁協のうち、策定にこぎ着けたのは3漁協だけ。状況ごとに避難行動を検討する作業の煩雑さに加え、犠牲者が出た場合の責任を回避したい心理が議論を妨げている。(盛岡総局・斎藤雄一)

<大半が手付かず>
 青森県は2014年度、むつ市の関根浜漁協、階上町の階上漁協と共同し、想定される津波の高さや漁船の種類に応じた沖出しルールを定めた。
 他の漁協にも策定を促そうと県は、策定手順をマニュアル化して公表。しかし、残る県内45漁協の作業はほとんど手付かずというのが実情だ。
 県漁港漁場整備課の担当者は「大半の漁協はルールの必要性を感じている」としつつ「組合員ごとに漁の時間帯が異なり、集まって話し合うのが難しいのではないか」と分析する。
 実際、両漁協の策定手順に沿ってルール作りを進めた場合、津波への理解を深める勉強会や避難海域までの移動時間を計る試験航行が必要で、策定まで約1年を要する。
 漁協の負担を軽減しようと県は、各工程の日程調整などをコンサルタントに委託するよう提案している。
 震災発生時の沖出しで少なくとも9人が犠牲になった岩手県も17年度、宮古市の田老町漁協をモデルにルールを作った。本年度は大船渡市の吉浜漁協と作業を進めており、両漁協の策定手順をマニュアル化して県内各漁協に配布する。
 ただ、青森県同様に岩手県も残り22漁協は策定に消極的だ。県によると、ルール通りの避難で犠牲者が出た場合に責任を取ることができないとして策定をためらう漁協が多いという。
 県漁港漁村課の阿部幸樹総括課長は「最終的に沖出しするかどうかを決定するのは個人。震災では津波への知識が足りないまま沖へ出て亡くなった漁業者もいる。命を守る目安としてルールは必要だ」と呼び掛ける。

<宮城と福島ゼロ>
 宮城、福島両県で策定済みの漁協はゼロ。宮城県水産業振興課の担当者は「ルールは、震災を経験した現場の意向があってこそ決められる。県が策定を主導するのは難しい」と距離を置く。
 福島県漁連の担当者は「既に暗黙の了解で漁業者一人一人が沖出しの基準を持っている。今後も策定の動きは出ないだろう」と漁協単位でのルール化自体に懐疑的だ。
 沖出しのルール策定に詳しい漁港漁場漁村総合研究所(東京)の加藤広之上級研究員(海岸工学)は「行政は、沖出しのルールを『海のハザードマップ』と捉えて策定を先導すべきだ」と訴える。
 その上で「これから漁業に参入する震災を知らない世代のためにもルールは大切。策定の必要性を震災被災地から発信すれば、取り組みが全国に広がる可能性も高い」と指摘する。

[沖出し]水産庁が2006年に策定したガイドラインでは、港内に係留中の船の沖出しは原則禁止。ただ、地域事情に即した避難ルールの弾力運用は容認しており、行政や漁協に策定を要請している。河北新報社の調べでは、震災発生時、岩手、宮城、福島の3県で約1100隻が沖出しし、少なくとも26人が犠牲になった。


2018年09月09日日曜日


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