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<東日本大震災>生活再建、個々に焦点 「災害ケースマネジメント」に注目 支援漏れの被災者救う

今もトイレと風呂が使えない家屋に暮らす男性(右)。貧困や健康問題などについて中尾弁護士(中央)と伊藤代表理事が聞き取りをした

 東日本大震災の被災地で、被災者の個別事情をくみ取って生活再建を支援する「災害ケースマネジメント」が注目されている。津波で大規模被災した石巻圏では仙台弁護士会や支援団体が実践し、鳥取県は東北の教訓から制度化を実現させた。既存の支援制度の枠組みから外れたり、時間とともに生活状況が悪化したりする被災者は多く、被災形態の多様化、複雑化に対応する狙いがある。(石巻総局・氏家清志)

<実態把握丁寧に>
 仙台弁護士会の中尾健一弁護士と、在宅被災者を支援する一般社団法人「チーム王冠」(石巻市)の伊藤健哉代表理事は8月下旬、宮城県女川町の60代の無職男性宅を訪れた。
 木造平屋で1人暮らし。津波は免れたが、地震で外壁と風呂の内壁に亀裂が入った。被害判定は「一部損壊」。家屋を補修する支援制度の対象から外れた。
 月収は年金の約5万円。震災後に心臓を患い、就労は難しい。家を修繕する金銭的余裕はなく、風呂とトイレは使えないでいる。
 中尾弁護士と伊藤代表理事は困窮する生活実態を約1時間半かけて聞き取った。男性は助言を受け、町に生活保護を申請。健康状態をみながら就労を目指す。
 伊藤代表理事は「損壊判定だけでは実際の被害は見えてこない。個別に聞き取り、支援を組み合わせて対応することが必要だ」と強調する。
 震災後、災害ケースマネジメントの考え方を取り入れた自治体もある。仙台市は2012年度、支援員が全ての仮設住宅を訪問。聞き取った情報から個別の支援計画を作り、必要に応じて専門家らにつないだ。
 大船渡市は12〜13年、在宅被災者を支援するため、民間団体と協力して津波浸水区域に残る全家屋を調査。住宅再建支援制度の周知や生活物資の提供、就労支援に取り組んだ。

<鳥取県は制度化>
 16年に鳥取中部地震に見舞われた鳥取県は今年、防災と危機管理に関する条例の一部を改正。「被災者の生活復興支援体制の構築」を明文化し、全国で初めて災害ケースマネジメントを制度化した。
 県内に生活再建が進まない被災者がいる事情を踏まえ、東北の被災地の取り組みを基に制度を設計。行政や民間支援団体などで構成する「生活復興支援チーム」を新設した。
 現在、対応が必要と判断した約1000世帯の調査を実施。戸別訪問して生活再建計画を策定し、必要に応じて建築士や保健師、弁護士らにつなぐ。鳥取県内に暮らす東日本大震災の自主避難者にも適用する方針だ。
 日弁連は16年、災害ケースマネジメント導入を国に提言した。日弁連災害復興支援委員会の津久井進委員長(兵庫県弁護士会)は「災害の影響は一人一人異なり、個別支援に取り組むことで支援から漏れる被災者を救える」と指摘。「介護保険制度が定着したようにまずは国が制度のベースをつくるべきだ」と訴える。

[災害ケースマネジメント]被災世帯を戸別訪問して被災状況を聞き取り、一人一人の実情に応じた支援計画を作成し継続的に支援する手法。介護保険制度のケアプラン(介護計画)の発想を持ち込んだ。自治体や関係団体が協力し、必要に応じて法律家や保健師、建築士などの専門家が対応する。米国で2005年に発生したハリケーン「カトリーナ」の対応として連邦緊急事態管理局(FEMA)が始めたとされる。


2018年09月17日月曜日


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