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<東北の本棚>終戦工作に動いた武人

◎海軍大将 井上成美 工藤美知尋 著

 太平洋戦争の戦時下、舞台裏で終戦工作に動いた人物が井上成美(しげよし)(1889〜1975年)である。仙台市出身の海軍大将。早くから対米戦争回避を唱え、軍部の上層部からにらまれながらも国際情勢を冷静に分析、その立場、信念を貫いた。波乱に満ちたその生涯を描く。
 人の生涯は、幼い頃の教育に大きく左右される。明治維新の余じんくすぶる時代に生を受けた井上のそれは、サムライとしていかに生き、全うするかを徹底して父親にしつけられた。
 生まれは現在の地番で言えば仙台市青葉区北目町1の1、仙台中央郵便局辺りだ。父親は旧幕臣で維新後、宮城県へ上級官吏として赴任する。成美の名は論語の「君子は美を成す」から取った。「立派な人間は良いことをする」の意味である。父親は子どもたちに、武士の子としての誇りを、過剰なまでに持たせる教育を施した。早朝5時起床、5時半朝食と生活時間を細部まで決めた。家事手伝いを割り当て。学校から帰ると「今日は何を習ったか」と質問する。海軍兵学校へ進んだ井上、父親から継いだ厳格主義、潔癖主義は、終生変わらなかった。
 著者の専門は戦史研究だ。太平洋戦争に至るまで、政権や軍内部でどんなやりとりが行われていたのかを詳細にたどっている。強硬派に対して終戦工作に動いたのは旧盛岡藩出身の米内光政(海相)、旧長岡藩出身の山本五十六(連合艦隊司令長官)、そして井上のトリオだった。生地はいずれも元の奥羽越列藩同盟に属する。戊辰戦争で敗者となった親たちの世代から受けた教育が、3人の生き方に影響を与えないはずはない。戊辰戦争に勝利した勢いに乗るようにして、太平洋戦争に突き進んだ薩長派閥の「勝者の論理」に対して、「敗者の側」からブレーキをかけたと読み取ることもできるだろう。
 著者は1947年長井市生まれ。政治学博士。日大専任講師など務める。
 潮書房光人新社03(6281)9891=2376円。


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2018年10月28日日曜日


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