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<ホップ薫るまちの挑戦>クラフト市場に活路

「MURAKAMI SEVEN」の毬花の摘み取り作業

 岩手県遠野市が栽培面積日本一を誇るホップを活用したまちづくり「ビールの里構想」に挑んでいる。生産農家は高齢化が進み、ビールの国内消費は低迷。取り巻く厳しい現実に、生産者や関係企業、そして若者たちが手を携えて立ち向かう。産地を守り抜こうと奮闘する人々を追った。
(釜石支局・東野滋)=4回続き

◎遠野・ビールの里構想(1)潮流

 加工場の機械がうなりを上げた。運び込まれたホップのつるから、ビールの原料となる毬花(きゅうか)がみるみる摘み取られていく。遠野市土淵町飯豊(いいとよ)地区で8月20日、キリンが開発した新品種「MURAKAMI SEVEN(ムラカミセブン)」の収穫が始まった。
 「マスカットのような個性豊かな香りで、国内外の醸造家が注目しているホップ」。こう話すのは、品種改良を手掛けたキリン酒類技術研究所の主幹研究員村上敦司さん(55)だ。
 ムラカミセブンはつるの伸びを抑えて農家の作業の省力化を実現した。生産現場の負担を減らしつつ、2割以上の収量増も期待できる。
 1991年には既に交配されていたものの、海外の安価なホップに押され、長く日の目を見ることはなかった。それが東日本大震災で潮目が変わった。
 取れたての生の遠野産ホップを原料にしたキリンの定番季節商品は、ずっと岩手が全国売り上げトップクラス。岩手県紫波町出身の村上さんは「新しいホップでおいしいビールを造り、もう一度、古里を笑顔にする」と誓い、遠野で2012年に試験栽培を始めた。
 成長著しいクラフトビール市場への本格参入をうかがっていたキリンも量産化を決断した。
 国産ホップの割高な原材料費も高価格帯のクラフトビールなら十分価格に吸収できる。ムラカミセブンを使った新商品投入に加え、国内メーカーへの自社ホップ供給で市場を活性化。ホップの需要を増やして産地を守り、将来の海外輸出も狙う。
 試験栽培を担った飯豊ホップ生産組合の組合長安部(あんべ)純平さん(62)は「少しずつ育て方が分かってきた。作業が今までより格段に楽というメリットは大きい」と手応えを語る。
 ムラカミセブンの収穫は適期が短く、従来品種で加工場が手いっぱいの時期とも重なる。新施設整備が今後の課題だが、それでも来年は市全体で約2ヘクタールの本格生産を見込んでおり、農家の関心は高い。
 安部さんは、同じく香りが好評価を受ける新品種「江刺2号」にも着目する。「クラフトビール人気のように消費者の好みは多様化している。ホップも少量多品種生産が求められる時代だ」
 半世紀を超える遠野のホップ生産に、クラフトビールという新潮流が変化をもたらそうとしている。

[メモ]遠野市のホップ生産は1963年、全量をキリンビールが買い取る契約栽培で始まった。冷涼な気候を生かし、87年には生産量日本一を達成。後継者不足などで74年度に239戸あった生産農家は、2017年度には34戸まで減少。栽培面積もピーク時の112ヘクタールから25ヘクタールまで縮小した。


関連ページ: 岩手 経済

2018年11月06日火曜日


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