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<東北の道しるべ>逆境から共創産業生む/東北の人材・資源生かす

天童木工が大崎市産のスギ材で製造した本棚=大崎市の市図書館
美容師も利用できるキッズルームがあるラポールヘア・グループの柳生店=仙台市太白区
リネシスが提案する「譲渡型賃貸住宅」の内覧会=10月20日、秋田市飯島道東

 地域の人材、資源、資産に、新しい技術やサービスを組み合わせた「共創産業」を興す動きが東北に広がっている。低成長経済、労働力不足、人口減少…。深刻な課題に直面した日本で、限られた資源をどう生かし、地域をどう活性化させるのか。東日本大震災という逆境から生まれた技術と知恵が、東北のあすを切り開く道しるべになる。

◎軟質木材を家具に 新技術で里山林業に光/天童木工(天童)

 スギやヒノキが上質な家具に仕立てられていく。家具製造販売の天童木工(天童市)に、木材生産地の自治体などから製造依頼が相次いでいる。
 スギなどの針葉樹は軟質材で傷が付きやすく、元々は家具に不向き。それを劇的に変えたのが、天童木工の加工技術だ。2013年、薄い板材に圧力と熱を加え、幾層にも重ねることで硬さを持たせる技術の実用化に成功した。
 大崎市の市図書館には、地元スギ材を使った天童木工製の本棚が並ぶ。スギ独特の明るい色合いと木目が、館内に温かな雰囲気を醸し出している。
 材料となったスギの丸太10本は、大崎市鳴子温泉の山林から大崎森林組合(大崎市)が切り出した。組合の担当者は「ほとんどのスギが伐期を迎えているのに肝心の買い手がいない」と現状を説明する。
 天童木工が軟質材の活用を考えたきっかけは東日本大震災だった。日本では家具に使う硬質材の95%を安価な輸入材に頼る。同社では震災時、輸入材を調達できなくなった。
 地元の山林を見渡すと、植樹から40年余り過ぎて伐期を迎えた木々があふれていた。ピンチの中に大きなヒントがあった。
 「かつて里山の暮らしを豊かにしたのは林業だった。先人が育てた宝の山を朽ちさせては地域が駄目になる」。西塚直臣常務(66)ら開発チームは、1年余りの試行錯誤を重ねて加工技術を確立させた。
 それが業界の常識を覆す「スギ材の家具」を生み、各地で荒廃が進む森林資源の活用策として注目されるようになった。15年には加工技術が認められ、経済産業省の「ものづくり日本大賞」の最高賞に輝いた。
 山形空港、宮城県南三陸町役場、高知県立大など各地から依頼が相次ぎ、17年度は約100件を受注。売上額は約5億円に達した。
 基本的に材料は丸太ではなく、加工後の板材を受け入れるようにしている。輸送コストを抑えられ、製材業者を加えた生産地の経済循環にもつながるからだ。
 天童木工では現在、軟質材を燃えにくくする技術開発に取り組む。加藤昌宏社長(75)は「燃えにくくなれば建物の内装資材として活用の幅が広がり、全国の山林が荒れるのを防げる」と意気込む。

◎託児室併設の美容室 スタッフの子育て支援/ラポールヘア・グループ(石巻)

 仙台市太白区柳生の幹線道路沿いに10月1日、居抜きの美容室がオープンした。店内で目を引くのは、じゅうたん張りのキッズルーム。店舗スタッフと客が無料で利用できる。
 宮城県内の被災地を中心に美容室を展開するラポールヘア・グループの21店目。この柳生店には、5人の美容師と2人の保育担当者が働く。
 結婚を機に美容師の仕事を離れた仙台市若林区の須藤未来さん(36)は、育児のサポート環境に魅力を感じて12年ぶりにはさみを握った。「2歳の長男を目の届く場所で見守りながら仕事ができる。体調を崩してもすぐに分かる」
 ラポールヘア・グループは、美容サロン経営10年の経験を持つ早瀬渉社長(42)=岐阜県出身=が起業した。2011年10月、雇用環境の再建が早期復興につながると考え、石巻市に1号店をオープンさせた。
 早瀬社長は、結婚や出産で現場を離れた女性美容師に着目した。有資格者は全国に120万人おり、そのうち実際に働いているのは50万人。残り70万人は子育て世代と子育てを終えた世代がほとんどだという。
 子育て中の女性の働きやすい環境をつくれば、腕利きの美容師が集まり、店のサービス向上につながる。スタッフも利用できるキッズルームを美容室内に確保するため、店舗は賃料の安い郊外の幹線道路沿いに開いた。
 グループでは18年10月現在、美容師約120人、保育担当約30人が働く。早瀬社長は「経営者、お客さまに寄り過ぎていた美容業界の事業構造を、従業員にもメリットのあるように変えたかった」と語る。
 震災後、キッズルームを併設した美容室が増え、競合も生まれているという。だが早瀬社長は「女性が活躍できる環境が整うことの方が重要だ」と意に介さず、被災地発の「三方よし」ビジネスの全国波及に期待を寄せる。

◎家賃払いマイホーム ローンなくし定住促進/リネシス(秋田)

 人口減少率、地価下落率の全国ワースト常連の秋田県で、家賃を払い続けて土地と建物を取得するマイホームプランが話題を呼んでいる。「譲渡型賃貸住宅」という仕組みで、秋田市の不動産業「リネシス」が開発した。
 入居希望者は間取りや内装などを用意されたプランから選び、10〜28年間の家賃の支払期間を設定する。支払いの目安は秋田市郊外の住宅地で月額7万円前後。家賃が住宅ローンのような役割になることから、「家賃が実る家」とPRしている。
 秋田県での試験販売を経て全国募集に乗り出した。2018年9月末現在、入居希望者は秋田県や宮城県など全国で3800人に上る。住宅も8棟完成した。リネシスは、賃貸しするオーナーと入居希望者のマッチング、家賃管理などを担う。
 森裕嗣社長(44)は06年、結婚を機に東京から妻の実家のある大仙市に移住した。秋田に暮らすようになり、人口減や縮小する経済の問題は地域全体で取り組まないと打開できないと感じた。
 目指すのは、建築業者、入居者、物件オーナーなどが協力して創り出す「オールウィン」のビジネスだ。
 住宅建築を請け負うアイズ(秋田市)の照井真澄社長(41)は、「地元業者が一緒になって住宅を建てる充実感がある。実入りも大手ハウスメーカーの下請けより良い」と話す。
 客層は当初、住宅ローン審査に苦しむ可能性の高いシングルマザーや非正規雇用者を想定した。ところが、長期ローンに抵抗のある若い世代や収入の安定した公務員など想定外の反響があった。
 10月20、21の両日、秋田市飯島道東の住宅地で内覧会があり、家族連れなど50人余りが訪れた。3年前に夫婦で新規就農した秋田市の男性(46)は「住宅ローンのことを難しく考えずに済む」と、担当者の説明に耳を傾けた。
 秋田を「課題先進地」と位置付ける森社長は「ローンのない新しいマイホームプランの選択肢として手応えを感じる。人口減、不動産デフレに苦しむ地域の定住促進や経済活性化につなげたい」と力を込める。

◎東北の道しるべ

・「東北スタンダード」を掲げよう
・「2枚目の名刺」を持とう
・「自然と人間の通訳者」を育てよう
・「共創産業」を興そう
・「エネルギー自治」を確立しよう
・「INAKA(いなか)を世界へ」広めよう


 戦後日本に価値観の転換を迫った東日本大震災を踏まえ、河北新報社は創刊120年を迎えた2017年1月17日、次世代に引き継ぎたい東北像として「東北の道しるべ」を発表しました。災後の地域社会をどう描くのか。課題を掘り下げ、道しるべの具体策を考える特集を随時掲載します。
 「東北の道しるべ」へのご意見、ご感想、情報をお寄せください。連絡先はファクス022(211)1161。michishirube@po.kahoku.co.jp


2018年11月17日土曜日


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