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<岩手大・学内カンパニー繁盛記>(上)岩手大学研磨工業/夢の砥石 技術が後押し

研磨装置を駆使する(左から)小野寺さん、松ケ根さん、菊地さん
学生たちが開発したスケート靴用の砥石。側面の隙間に刃を挟み込んで研ぐ

 研究室でもなければサークルでもない。それが今年で発足10年となる岩手大の独自組織「学内カンパニー」だ。学生が「社長」や「社員」となり、大学から経費を受け取って日夜、ものづくりに励んでいる。夢の実現や技術力の向上、地域貢献という大志を抱いて奮闘する学生たちの「職場」を訪ねた。(盛岡総局・斎藤雄一)

<スケート靴専用>
 高速回転の円盤が左右に動いて金属板を磨く。1往復したら1000分の1ミリ単位で位置を微調整。この作業を数十回繰り返すと、目では分からない緩やかな弧が刻まれる。
 金属板は「台金(だいがね)」と呼ばれ、スケート靴の刃を研ぐ砥石(といし)の心臓部になる。学内カンパニー「Iwate−univ.KENMA(岩手大学研磨工業)」が製造、販売する自信作だ。
 スケート靴の刃は、前後よりもわずかに中央がふくらんだ曲線をなしており、表面が平らな従来の砥石で研ぐのは至難の業だった。スピードスケートの選手は5〜6種類の砥石を使い分けて力加減に配慮し、1時間以上かけて刃を仕上げてきた。
 一方、岩手大の学生が製作した台金は刃にフィットする曲がり具合を実現。子どもでも簡単に扱え、研磨時間を10分に短縮できる。価格も5000円と安価で、6万〜8万円する砥石セットを持ち運ぶ必要もない。

<人脈生かし営業>
 屈指の技術力を誇るカンパニーの「社長」小野寺峻一さん(22)は、工学とは縁遠い教育学部の4年生だ。高校でスピードスケートを始め、今もスケート同好会に所属する。
 「使いやすい砥石を作って競技人口を増やしたい」という夢を引っ提げ、社員7人の先頭に立つ。工学の知識不足は営業活動でカバー。選手として築いた人脈を生かし、首都圏の強豪大学に次々飛び込み営業を仕掛ける。
 カンパニーの社長は大学から経営資金を受け取るだけに、予算編成や販売方法の検討、毎月の活動報告など多くの義務を抱える。仮に誤算が生じても「倒産」しないとはいえ、社員を率いる重圧は大きい。
 小野寺さんは「人をまとめるのは本当に難しい」と実感しつつ「教員志望なので、いつか子どもたちの前に立つ時にこの経験が役立つはず」と笑顔を見せた。

<顧客第一主義>
 行動派社長を支える技術士は、ともに理工学部4年の菊地敦史さん(22)と松ケ根颯人(はやと)さん(22)だ。文部科学省の補助金で学内に整備した高度試作加工センターのハイテク機械を操って製品を仕上げる。
 刃を滑りやすくするためにフッ素樹脂の部品を採用、外装はアルミ製で261グラムと極限まで軽量化。社長が唱える「顧客第一主義」を貫いた結果、試作品の山ができた。
 失敗の連続にも、松ケ根さんは「設計をゼロから考える機会は、大学の講義ではあまりない。アイデアが形になる瞬間って面白い」と手応えを語る。
 「次は岩手の子どもたちに自分たちの砥石を使ってほしい」と小野寺さん。ものづくりの醍醐味(だいごみ)を知った学生社長が、さらなる企業戦略を練り始めた。


[学内カンパニー]ものづくり人材の育成を目的に2009年度に創設。13年度まで文部科学省から計約5億円の補助金を受け、14年度以降は岩手大の自主運営事業となった。各カンパニーには事業内容や社員数に応じて年間50万円以下の経営資金が給付される。本年度は10社で74人の学生が働いている。


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2018年11月27日火曜日


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