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<アートで拓く>花巻・光林会とるんびにい美術館(2)支える/言葉超え 発想を「通訳」

パジャマアートを手にする(左から)良子さん、下田さん、多田さん

 東北初の知的障害者によるアート作品の展示施設「るんびにい美術館」を運営する岩手県花巻市の社会福祉法人「光林会」が今年、設立50周年を迎えた。岩手から世界へ。自らの存在を発信し続ける障害者アーティストと、支え、見守る仲間たちを紹介する。(盛岡総局・千葉淳一、北村早智里)

 パリの美術館で2010年3月、日本の障害者アート展が開かれた。作家の一人、下田賢宗(たかひろ)さん(35)の作品も並んだ。

<独特なパジャマ>
 イクラやカボチャの天ぷら、フライドチキンと派手でユニークな柄のパジャマ。独創的な作品に誰もが笑顔になった。
 久慈市出身の下田さんは3歳で自閉症傾向と診断された。1999年に中学を卒業してから、花巻市の社会福祉法人「光林会」が運営する知的障害児施設「ルンビニー学園」などで生活してきた。
 大切にしている何十冊ものノートには、絵本や童謡に触れて発想したイラストや言葉がぎっしり。下田さんの生活支援を担当していた多田寿子さん(57)は「かわいい絵や文字を見せてもらうのが楽しみだった」と語る。
 下田さんが「イクラのパジャマ」と繰り返し口にし始めたのは中学の頃だった。母良子さん(58)が似た模様のパジャマを買い求めても納得しない。
 ルンビニー学園でもノートに「イクラのパジャマ」を描いて切り抜き、何度も多田さんに渡すようになった。多田さんと良子さんは、切り抜きを連絡帳に貼ってやりとりを重ねた。

<最優秀賞を獲得>
 どうしたらよいのか分からず、悩む2人。次第にいら立ちを募らせる下田さん。「ないなら自分で作ってもらいましょ」。ある日、多田さんが提案した。
 フェルトペンや水彩絵の具を渡すと、下田さんは夢中になって白のスエットをイクラの模様で埋め尽くした。卵の輪郭を縫って、一粒一粒が浮き上がって見えるようにした。
 「イクラのパジャマ」は、わずか1日で完成した。
 2000年2月の知的障害者の公募展「いわて・きららアート・コレクション」に出品したパジャマは芸術作品として注目を浴び、最優秀賞を獲得した。
 全国から出品依頼が相次ぎ、日本を代表する障害者アーティストとして海外進出を果たした。
 「受賞をきっかけに世界が広がり、たくさんの人が賢宗に笑顔を投げ掛けてくれるようになった」と良子さん。何より下田さんの表情が穏やかになった。
 「施設利用者の言葉を超えた思いをくみ取り、通訳するのが私たちの役目。作品を通して、さらに障害への理解が広がってほしい」。下田さんと二人三脚で歩いてきた多田さんの願いだ。


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2018年12月29日土曜日


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