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<週刊せんだい>杜の都の漫画家(1)「言葉超えた世界」表現/いがらしみきおさん

「仙台にいたから、『I』が描けたと思う」と話すいがらしさん=仙台市泉区の事務所
いがらしさんの主な作品
人気漫画家荒木さんの「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズのコーナー=仙台市青葉区の喜久屋書店仙台店

<「ぼのぼの」大ヒット>
 宮城県加美町出身で仙台市泉区のベテラン漫画家いがらしみきおさん(63)は、漫画の力を「たやすいことではないが、言葉を超えた世界を伝えられることだと思う」と語る。
 いがらしさんは古川工高を中退し、24歳でデビューした。「ネ暗トピア」で一躍、過激なギャグ漫画の旗手となり、月に24本の締め切りを抱える。だが、1984年に「(仕事を)やりすぎだ。このままでは滝に落ちる」と休筆宣言。その2年後に描いた復帰作の4こま漫画「ぼのぼの」が大ヒットし、代表作となった。
 同作は子どものラッコを主人公に独特のユーモアやペーソス、哲学的な問いを織り交ぜた漫画だ。講談社漫画賞を受賞し、現在も「まんがライフ」に連載中だ。単行本の累計発行部数は900万部を超している。
 同作は韓国でも大人気だ。連載開始30年を記念して日本で制作された新テレビアニメシリーズが2016年秋に韓国で放映され、人気に火が付いた。いがらしさんは「無力でも寄り添う存在が、韓国でも受け入れられたのかも」と分析する。

<東北舞台に最高傑作>
 いがらしさんは「ぼのぼの」の作者という地位に安住しなかった。社会のひずみや人の心の奥底を浮き彫りにするラジカルな作品も次々に発表し、奇才ぶりを発揮していく。
 中でも神をテーマに据え、生死の謎や言葉の呪縛、世界を認識する意味などに肉薄した「I(アイ)」(単行本3巻)は、他に例を見ない作品だ。同作は東北を舞台に、神懸かったイサオと幼少期から実存的な疑問を抱えた雅彦が「神様」を探し、数奇な運命をたどる物語。言葉にしがたい読後感があり、読者を圧倒する。
 「幼い頃から、この世界とは、生きるとは何かを考えてきた。『I』では奇跡的に言語以前の領域まで描けた気がする。最高傑作になったと思う」。いがらしさんは振り返る。
 「I」の執筆中に発生した東日本大震災が、創作に大きな影響を与えた。泉区の仕事場で被災し、一時的に避難所で生活した後、震災後の社会や人心を問う傑作を生む。
 震災後の社会のほころびや自己とは何かなどを主題にした「誰でもないところからの眺め」だ。世界と自己の裂け目や無意識をのぞき込むような内容で、日本漫画家協会賞優秀賞を受賞した。
 同作は「炭鉱のカナリア」のように震災後の社会に警鐘を鳴らす。「震災に関しては描いても描いても答えが出ない。震災で人の心にひびができ、穴が空いた。それを安易な言葉で覆い隠そうとする風潮に違和感がある。目に見えないところで亀裂が広がっている気がする」と話す。
 今年は漫画家になって40周年だ。「まだ内容は公表できないが、年内には衝撃作をお届けできるかもしれない」。いがらしさんは謎めいた笑みを浮かべた。

仙台圏に住み、活躍する漫画家の作品世界や創作姿勢を紹介する。


◎代表格は「ジョジョ」仙台ゆかりの漫画家群像

 仙台市出身の漫画家の代表格は荒木飛呂彦さんだ。「ジョジョの奇妙な冒険」シリーズの単行本の累計発行部数は1億部を超えており、圧倒的な人気を誇っている。同シリーズは、ジョースター家の血を引く青年たちが世代を超えて悪と戦う壮大な物語だ。
 仙台市在住の女性漫画家は、「近キョリ恋愛」などで若い女性に人気のみきもと凜さんや「日日(にちにち)べんとう」が好評の佐野未央子さん、「取材漫画家」と称し、東日本大震災後の社会問題などを描いている井上きみどりさんらがいる。
 あみだむくさんも注目したい在仙の一人だ。「めしぬま。」は、男性会社員が恍惚(こうこつ)の表情で食事する場面を独特の筆致で描き、個性的な作品。日本デザイナー芸術学院仙台校卒の保谷伸さんやオイカワマコさんも頭角を現している。
 現役を退き、今は総合学園ヒューマンアカデミー仙台校講師の内崎まさとし(本名内崎雅俊)さんも仙台市に住む。1978〜87年に「週刊少年チャンピオン」に連載したギャグ漫画「らんぽう」が大人気だった。
 仙台ゆかりの中には、宮城県を舞台に高校バレーボールの世界を描いた人気漫画「ハイキュー!!」の作者古舘春一さんがいる。岩手県軽米町出身で仙台デザイン専門学校卒。
 仙台市の書店関係者は「居住地を公表していない漫画家が多いが、知る限りでも在仙漫画家は15人近くいる」と話している。


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2019年01月10日木曜日


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