福島のニュース

<福島のマタギ>山を守る、自然と生きる 鉄砲担ぎ40年「共生の志」体現

山の神様に祈りをささげる猪俣さん=1月中旬

 新潟県と接する雪深い福島県金山町の猪俣昭夫さん(68)は「県内唯一のマタギ」と呼ばれる。山の神に感謝し、降り積もった雪を踏み、クマをはじめとする命と向き合う。鉄砲を担いで40年余。「山を守って自然と共に生きる」。「共生の志」を体現し、伝える活動に取り組む。

 雪の山道を進む足が止まる。手を合わせて頭を下げる。雪の下にほこらがあるという。入山、下山の際の厳粛な儀式だ。
 「無事を祈って、山の神様にあいさつをするんだ」
 猪俣さんは定年まで、消防士との二足のわらじを履いてきた。父も猟師。幼い頃から一緒に山を歩いた。
 地元の高校を卒業後、上京して石油会社で働いた。23歳の時、父が山で行方不明に。数カ月後に遺体で見つかった時、「帰ってこいと言われている気がした」と、帰郷を決断した。

<自らの手で>
 年老いたマタギが暮らす集落に通い、狩猟を学んだ。最後の1人が亡くなったが、当時はマタギとしての自覚はなかった。
 転機は30年ほど前。仕留めたクマのそばに、生後数カ月の子グマがいた。親子グマは殺さない−。山のおきてを破ってしまった。
 せめて子グマを救いたいと、連れて帰り、動物園に連絡したが、受け入れ先は見つからない。山に帰しても死んでしまう。最終的に自らの手で絞め殺した。「かわいそうで、それから山でクマを撃てなくなった」
 2、3年後、市街地でのクマ出没が目立ち、有害駆除が必要になった。おりの中で殺処分される姿に心が痛んだ。クマの出没増の背景には、里山の荒廃に加えて猟師の減少がある。金山町にもかつて、100人を超える猟師がいた。
 「自分がやめたら、クマを守る人がいなくなる」。山の動物の数を把握し、捕りすぎず、繁殖させすぎないようにバランスを保つ。「マタギの教え」を痛感し、再び山に入ってクマ撃ちを始めた。

<崩れた均衡>
 東京電力福島第1原発事故でクマやイノシシの肉は出荷制限が続くが、狩猟はやめない。「人と自然のバランスが崩れている」との危惧が強い。頂いた命は自家消費している。
 近隣ではシカの食害も増えている。樹木が枯れて影響が山全体に及びかねない。「自然は痛い目に遭っても声を上げられない」
 猪俣さんは「マタギ」と記した名刺を持ち歩く。春が来れば畑を耕し、日本ミツバチを飼育。町内で養蜂セミナーを開き、都会の人々と一緒に山を歩く機会も設けている。昨年5月、町の地域おこし協力隊の男性(26)が弟子になった。
 「自然と共生する。山を守るため、マタギの教えを広めていきたい」。山の守り人の神髄が次世代につながる手応えを感じている。


関連ページ: 福島 社会

2019年01月27日日曜日


先頭に戻る