広域のニュース

<問う論じる 改憲の行方>9条の旗 絶対降ろすな/映画監督、作家 森達也氏

[もり・たつや]1956年広島県呉市生まれ。立教大法学部卒。98年、オウム真理教を追った映画「A」を公開。続編「A2」が山形国際ドキュメンタリー映画祭で特別賞・市民賞を受賞。著書に「すべての戦争は自衛から始まる」など。

 安倍晋三首相は2020年の改正憲法施行を掲げ続ける。今夏の参院選では争点の一つになりそうだ。表現に関わる人々に、論議の憂慮すべき点を聞いた。

<自分たちの血肉>
 −自身の憲法観は。
 「何が何でも改正には反対という護憲論者ではない。必要があれば改正すればいいと思うが、すぐに無理をしてまで改正する必要はない。及第点で現状のままでいいと思う」

 −安倍政権は改憲に意欲を燃やす。
 「改正する理由が分からない。現行憲法はよく『押し付け憲法だ』と指摘されるが、制定から70年以上がたち、しっかり自分たちの血肉にしている」
 「例えば朝鮮戦争の時、米国からの再軍備の要求を日本ははねのけた。米国の要求より憲法を選んだ。いまさら押し付けだから変えましょうというのは全くの不合理だ」

<矛盾 より深める>
 −9条をどう考えるか。
 「戦力の不保持を掲げる9条の記述と自衛隊の存在は確かに矛盾している。ただ、憲法は権力を縛る道具であるとともに、理念でもある。いずれ軍隊のない平和な世界を目指したいと書くのは当然だ」

 −自民党の改憲4項目には9条への自衛隊明記が含まれている。
 「戦争の放棄、戦力の不保持を掲げながら、現実と矛盾しているから自衛隊を明記するというのは、さらに矛盾を深めている。20世紀以降の戦争の発端は多くが自衛だ。人間は防衛本能が強く軍隊を持ちたがるが、持つことで逆に戦争の口実を与えてしまう」
 「9条は戦争に対するアンチテーゼ。人類が戦争と縁を切るためにはこれしかないと、世界に先駆けて旗を掲げたのが9条だ。この旗は絶対に降ろしたくない」

 −現在の社会状況の分析と、その流れで改憲議論が進むことをどう考えるか。
 「一連のオウム真理教事件以降、漠然とした不安を背景に同じ考えの人と一色に染まりたい、多数派でまとまりたいと考える『集団化』が起きていると捉えている。集団化は同時に分断化も招く。自分たちと違うものを敵として可視化しようとする。そのような状況で一人一人が冷静に判断できるか疑問だ」

<権力の監視必要>
 −集団化にあらがう方法は。
 「物事を見る視点を変えてみればいい。何か事件が起きるとテレビや新聞はセンセーショナルな部分を取り上げ、人々はそれに熱狂する。熱狂するのはいいが、それは物事のある一面だという意識を持つ。それだけで一斉に同じ方向を向くとか、同じ勢力に群がるということが少しは減るのではないか」
 「映画『A』や『A2』の撮影を通じて、捜査権力の恐ろしさが身に染みた。その気になれば何でもできるし、個人は無力だ。だからこそ権力の監視が必要で、ジャーナリズムは重要な要素。権力は暴走し、腐敗し、隠す。現政権の状況を見ると、メディアがきちんと機能していないのではないか。ネット社会が進み、あらゆる情報が入り乱れているからこそ、新聞やテレビの役割は大きくなっている」
(聞き手は東京支社・山形聡子)


関連ページ: 広域 社会

2019年02月05日火曜日


先頭に戻る