宮城のニュース

<E番ノート>名人芸

 「早く送れよ」。若手時代、このコラムの半分以下の短い原稿に1時間以上も向き合っていると、先輩によく注意された。「自分はできるだけ素早く手放す」。東北楽天が誇る守備の名手藤田がボールの扱いで同種の表現を使っていた。
 ゴロ捕球の際、グラブでしっかり握らずとも、はじいた跳ね返りを難なくさばいてしまうのが流儀だ。さかのぼること高校時代、グラブ代わりが「来賓」と書かれたスリッパだった。その裏側に当てて宙に浮いた球を握る練習で感覚を磨き、今がある。「握り損ねてもごまかす方法まで身につけたが…」と謙遜するが、やはり一連の動作は流麗そのもの。
 「こうしなくてはいけない、という形を作らない」という自由な発想が守備哲学にある。「そもそも理想的な送球なんて1000回に1回もできない。送球は『捕りやすい相手の胸へ』と子供の頃から教えられるが、『だいたいで大丈夫』の感覚なら心の余裕が生まれる。きっちり投げようとするから(問題ない動作が突然乱れる)イップスにもなる」
 筆者も触発され、別の原稿を速さ重視で出してみた。受け手は「速いのは助かるけれど、もう少し丁寧な方が…」。名人芸にはほど遠かった。(金野正之)


2019年02月21日木曜日


先頭に戻る