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<いわてを考える>第3部・復興施策(1)文化・スポーツ 絵図修復今も手つかず

岩手県立博物館で行われている被災文化財の修復作業
赤沼英男さん

 東日本大震災の発生から間もなく8年となる。復興の歩みは都市基盤の再整備にとどまらず、文化や教育、観光振興と多方面に及ぶ。何が変わり、何が課題なのか。岩手県各地で復興の最前線に立つ人たちと考える。

 陸前高田市立博物館の収蔵品など、県内では約49万点の文化財が津波被害に遭った。県は文化庁の補助を得て修復作業に取り組んでおり、本年度内に約25万点の修復を終える。
 県立博物館(盛岡市)では専門職員20人が、海水に漬かって固着した泥やカビの除去、損傷部分の補修に携わってきた。修復済みの大半は水洗い可能な紙資料だ。

<補助が終了か>
 県指定の有形文化財で陸前高田市に伝わる仙台藩大肝入(きもいり)吉田家の執務記録「吉田家文書」の修復には、国立国会図書館(東京都)も協力した。
 絵図類には水洗いできない染料が使用されており、いまだ有効な洗浄法を見いだせない。
 全国的にも珍しいイノシシの革製のマタギ道具も修復法が確立されておらず、手つかずのままだ。
 文化庁の補助は2020年度で打ち切りの見通し。半数近くの被災文化財が、未修復のまま保管され続ける事態も予想される。

<W杯に力注ぐ>
 県は震災後、スポーツ振興による復興に力を注ぐ。16年には46年ぶりとなる国民体育大会を開催した。達増拓也知事は「復興のシンボルとして開催することが民意にかなう」と意義を強調する。
 17年度には県組織を改編し、知事部局に「文化スポーツ部」を設置。今年9月に開幕するラグビーワールドカップ日本大会では、試合会場の一つ「釜石鵜住居復興スタジアム」を48億8000万円で整備した。
 沿岸各地に根付く郷土芸能は74団体が被災した。このうち68団体が活動を再開。県と県文化振興事業団が用具購入・修繕費を補助した。

◎新技術開発目指す/岩手県立博物館上席専門学芸員 赤沼英男さん(61)

 津波被害に見舞われた文化財の再生は国際的にも初めてで、方法論がなかった。私たちの作業は、材質や形態ごとに試行錯誤で修復技術を構築するところから始まった。
 水洗い可能な資料でも作業には22の工程があり、一つを処理するのに1週間から10日を要する。修復が残っているのは、水洗いできない水彩画や複合素材、革製品など。処理が困難で時間もかかる一方、学術的価値の高い文化財だ。
 事業は2020年度が区切りになる。修復の数を優先しなければならないが、より価値の高い文化財が欠けているのでは地域独特の歴史や風土を守れない。被災地に新しい博物館を建てても肝心のコレクションがそろわないのでは問題だ。
 新年度以降は、数をこなしつつ新技術の開発を目指す二正面作戦を考えざるを得ないだろう。
 震災を経験した岩手で基礎的技術が確立されれば、全国のどこかで次に災害が起きても、素早く適応して文化財の遺失を最小限に食い止められる。
 全国の関係機関と技術を共有するのはもちろん、ワークショップ開催などで技術を広めてきた。文化財の修復には、そうした社会的意義もあると考えている。


2019年03月05日火曜日


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